携帯電話の登場以来、街中で下を向いて歩いている人が増えた気がします。いや、確実に増えています。画面と向き合えば、視線が下へと落ちるのは自明の理。つまずいたり、ぶつかったり。視界が狭まれば、大事な何かを見逃すことも往々にしてあるものです。シブい喫茶店の存在に気づかず、素通りなんてことも。
「珈琲専門店アロマ」という文字と手動のコーヒーミルのイラストが印刷された古いブックマッチ。開いてみると、半分ほどが使用済みで、残った8本のマッチが左側に連なっている。ブックマッチって懐かしいな。
なんでこんな物を手にしているかというと、新浦安駅アトレの「ドトール」で一服しようかとコーヒーを注文してカップを手に喫煙ルームに入ったところでライターを持っていないことに気がついた。隣の席のソフトバンクじゃなくて、ダイエーホークスのベースボールキャップを被りスポーツ新聞を読んでいる70歳くらいのおじいさんのテーブルの上にライターが見えたので、「スミマセン、火をお借りしてもいいですか」とライターを借りて煙草を吸っていると、「これ、よかったら持っていきなさい」と差し出されたのがそのマッチ。
街中で知らない人と話すことって減ってしまいましたよね。道に迷ってもスマホがあるし、電車やバスで席を譲るときくらいかな。
やはり新浦安の駅前で改札に向かって急いでいる白人女性のスカートにユニクロのMっていうサイズのシールが貼りっぱなしになっていることに気がついて「あの、シール、シール!」って指差しながら教えてあげたこともあったかな。彼女がとても早足だったので声をかけるタイミング、難しかったです。普通にお礼をいわれました。でも会話っていうほどにはなかなかならないですね。
アメリカを旅していたときにYUKIの「Sleep」のTシャツを着ていたことがあって、セントルイスのコンビニで会計を終えたら、レジのアフリカ系の女性に思いっきり胸に書いてある文字「I know you.Just a little bit Just a little bit more.When was the last time we talked About picking up flowers And making & flower crown out of them?」を指でなぞりながら大声でゆっくりと朗読されたこともあったな。で、「Whoooom,nice!」と言ってくれました。たぶん褒めてくれたのかな。
キャッチセールスの人とかナンパの上手な人も凄いよなあ。ちょっとした良いことを見つけてすぐに褒めるって才能だなあ、でも何事も練習かなあ。ナンパってしたことないけど、顔を褒めるんじゃなくて、服とか身につけているものを褒めるんだって誰かが言ってたような気もします。
――つづく。
文・写真:大森克己