自分でブレンドコーヒーをつくってみよう。壮大なのか、酔狂なのか、趣味なのか。果たして、うまくいくのか。混ぜて、飲んで、また混ぜて。4人が挑んだオリジナルブレンドへの道。12月8日開催のイベント「世界にひとつだけのオリジナルブレンドをつくってみよう」でお披露目します。
コーヒーのブレンドにまつわる話を「The Cream of the Crop Coffee 清澄白河ロースター」の焙煎士である板原昌樹さんに聞いて、ふと思った。
ちょっとした豆の具合で味が変わるのであれば、さまざまな豆を買ってきて、自分好みのオリジナルブレンドをつくることができるんじゃないか。
せっかくなら、dancyuのwebでオリジナルブレンドをつくったらどうだろう?
コーヒーに縁の深い4人に声を掛けてみる。なんだかよくわからないけど、なんだかおもしろそうという4人だが、「できるとは思うけどね......」。なんだか腰もひけている。「おいしくなるかどうかはわからないよ」。そう、口をそろえるのだ。
元喫茶店主のライター。旧作邦画をこよなく愛する53歳。コーヒーは華やかな酸味よりも締まった酸味、シャープな苦味よりもダークな苦味が好み。今回のオリジナルブレンドはクラシカルな喫茶店風をイメージ。現在、手廻しロースターにて自家焙煎の勉強中。
福岡市在住のライター。福岡でよく行くのは「珈琲美美」「珈琲闌館」「珈琲花坂」「マスカル珈琲」など。2010年に福岡にある喫茶店「美美」店主の故・森光宗男さんのエチオピア視察旅行に同行し、モカの魅力を体感。以来、モカ贔屓に。2017年には森光さんと「大坊珈琲店」の大坊勝次さんとの対談をまとめた『珈琲屋』(新潮社)の発刊に携わる。2019年には「九州喫茶案内」を出版予定。
横須賀出身。写真家兼「活版印刷局凸凹舎」舎主。浅草「アロマ」と鳥越「蕪木」が近くにある幸せに感謝する日々。深煎り好きでも安心して飲める中煎りコーヒーを求め、オリジナルブレンドをつくる。拾い物界のマイケル・ジョーダンと言われている。
写真家。幼い頃、父親が喫茶店を経営していたこともあり、たまに店に連れて行ってもらうと、コーヒーと煙草の香り、店の空間、大人的サムシングに憧れをもった。それこそが、インスタントコーヒー以外のコーヒー初体験。東日本橋「珈琲亭駱駝」、浅草「アロマ」、鳥越「蕪木」などが好き。渓流釣り、料理を趣味とする。奈良県出身。
さっそく、みんなで集まってみる。「dancyuのwebでブレンドをつくるとしたら、どんな味わい?」をテーマに、居酒屋で喧喧囂囂。理想のブレンドを求めて、おおいに脱線しながらも談義は白熱。
4人の声を拾ってみると、「毎日、飲んでも飽きない味」(そりゃそうだ)、「とはいえ、味に奥行きがほしい」(うんうん)、「深煎りのどっしりしたコク」(こりゃ、うまそう)、「冷めてもおいしさが変わらない」(いいですねぇ)、「あんこに合うコーヒー!」(なんだなんだ?)、「コーヒー発祥伝説のあるエチオピアは入れたい」(なるほどなぁ)などなど。
コーヒーが嗜好品であると、再認識。とはいえ、このままでは進む道が見えない。それならば、初心にもどって、板原さんに訊いてみよう!
ということで、4人でやって来ました「The Cream of the Crop Coffee 清澄白河ロースター」。
「The Cream of the Crop Coffee 清澄白河ロースター」の焙煎士。焙煎具合を変えたときに予想していない味わいになると、焙煎士としての楽しみを感じる。プライベートではトラジャとマンデリンを好んで飲む。好きなコーヒーショップは「アベコーヒー」。コーヒー界は新しい器具が知らないうちにドンドン出ていて、いろいろと試してみたいけど、なかなか難しい。
板原さんがコーヒー豆を並べます。グアテマラ、ブラジル、コロンビア、エチオピア(おっ)の4種類。「The Cream of the Crop Coffee 清澄白河ロースター」のオリジナルブレンドは、この4種で構成されているという。
まずは、シングルオリジンのブラインド試飲からスタート。
「なんだろう?おもしろい香りがしますね」と小坂さんが言えば、大沼さんが答えます。「安心感のある匂いじゃない?わかった!老舗旅館の布団って感じ」。「わかるわかる。重ための布団だよね、これ」と萬田さんがかぶせてきます(布団じゃないですよ)。
布団と称された、この豆、なんですか?
「グアテマラです。ナッツのような豊かな香りと滑らかな口当たりがありますよね」。板原さんが冷静に教えてくれます。
次の一杯へ進みます。「ほっこりしますね。この味、好きだなぁ」と深町さんが言えば、「わかります。焼き芋を食べたときみたいですよね」と小坂さんが、ほっこり答えます。「どっしりした感じ。潔いね」。萬田さんが締めます。
さて、焼き芋を彷彿させる豆とは?
「ブラジルですね。酸味もコクも苦味も突出した要素がなく、バランスが良いのでブレンドのベースに使われることが多いです」。板原さんが真摯に答えてくれます。
続いて3杯目です。萬田さん曰く「清涼感があって、スーっと飲みやすいね」。深町さんは「飲みやすいけど、もう少しひっかかりが欲しいかな」と物足りない印象。小坂さんは「欠点はないけど、主張がおとなしい優等生タイプって感じですね」。
優等生の豆はなんだ?
「コロンビアです。チェリーのような引き締まった酸が印象的です。ブレンドすると、ほかの豆の特徴がバラバラにならないように味をまとめてくれます」。板原さんが無難にまとめてくれます。
最後は、エチオピアしか残ってませんから、当然エチオピアです。「ピチピチした印象ですね。ジューシーな酸味と甘みがいいですね。とても好みです」と満足そうな小坂さん。「酸味と香りが交互にやってくる。花やしきのジェットコースターみたいで楽しい!」と下町に居を構える大沼さんらしい答え。しかし「僕はもう少し苦味とコクが欲しいかな」と深町さんは辛口です。
「エチオピアは、果実を思わせる華やかな香りが特徴的です。この4種類の中でもいちばん個性が強いです」。板原さん、丁寧に説明してくれます。
4種類の豆の個性は、わかった(つもり)。いよいよ、ブレンドを飲み比べてみます。まずは4種類の豆を同じ量でブレンドしてみると――。
「後味が穏やか。好印象だね」。これは萬田さんの感想。
「安心して飲めますね」。小坂さんも好意的。
「私的には、もう少し酸の余韻を抑えたほうがいいと思うな」。酸が気になった大沼さん。
「僕もそう思いますね。この酸は好きだけど、きついと思う人は多いんじゃないかな」。物申す深町さん。
「4つの豆の中では、コロンビアの酸が強く感じると思います」。板原さんの解説を訊いて、コロンビアを抜いた3種類の豆でブレンドをつくってみる。1対1対1の配合。
「なんだか物足りない感じだなあ」と大沼さんは首をひねれば、「するする飲めちゃう。興味深いですね。この抜け加減」と萬田さんも頷いています。「ダメじゃないんだけど、どこかお茶っぽいと思います」と小坂さんは苦笑い。「4種類、すべて入れたほうがいいと思いますね、僕は」と深町さんが力強く宣言します。
ここで板原さんが「ちょっと待ってください」。「さっき、4種類の豆を同じ分量でブレンドしたときに、酸が強いという意見がありましたよね。豆の挽き目を細かくすると、酸が抑えられて、コクが出やすいと思いますよ」。
「おぉ」。一同から感嘆の声が漏れます。
「4種類の豆を同じ分量で配合ブレンド細挽バージョン」をごくり。
「おいしい。酸がしっかり馴染んでいる感じですよ、これは」「バランスがよくなりましたね。きれいです」。褒め言葉は大沼さん&萬田さん。
「豆の渋みがたっているような気がするんですよね。僕は粗挽きの方が良かったかな」「最初のひと口はいいけど、渋みがちょっと残る感じはありますね」。もう少しがんばりましょう言葉の深町さん&小坂さん。
オリジナルブレンドへの道は、まさに一歩進んで二歩下がる。
「華やかな香りがあるエチオピアと、ブラジルでコクを補填すれば、渋みを抑えられると思います。エチオピアを増量した細挽ブレンドを飲んでみましょうか」
「はい、ぜひ!」。
深町さん、気に入りましたか?「おしゃれな味ですね。外光が差すカフェで飲むようなイメージじゃないですか」。
大沼さん、いかがですか?「純喫茶ではない感じだね」。
小坂さんは?「きれいな感じかな。華やかさがまとまっていていいと思います」。
萬田さん、大丈夫ですか?「失敗感がさっきよりは少ないですね」。
ここで板原さんが「エチオピアとブラジル増量の細挽を飲んでみませんか?」。
「もちろん!」
「なぜか、酸がいちばんたっていますね、これ」と大沼さんが言えば、「そうですね。エチオピアだけ増やした方がよかったですね」と小坂さんも同調します。しかし、深町さんは「僕は好きだな。酸はたっていますが、余韻が短くて好みです」。萬田さんはといえば、「僕は等配合のブレンドがよかったかな、ブレンド、複雑だなぁ」です。
結論は――。
出ませんでした!
この日、4人には宿題が出されました。「グアテマラ、ブラジル、コロンビア、エチオピアの豆を持ち帰って、家に帰って自分好みのブレンドを探すこと」。
宿題の成果は12月8日に開催されるイベント「世界でひとつだけのオリジナルブレンドをつくってみよう」で披露されます。もちろん、イベントへの参加が叶わないみなさんにも、当日の様子と併せて、改めてお知らせします。