
dancyu誌面では長きにわたりお世話になっている兵庫・芦屋の『メツゲライクスダ』が、祭に初登場!メニューはホットドックです。パリッと弾ける皮の食感とともにあふれる豚肉の旨味。日常のホットドックとは一線を画す、極上のシャルキュトリの世界が体験できます。芦屋まで行かずとも味わえるこの貴重な機会を、どうぞお見逃しなく!


2004年、現在の「六甲道店」がある場所で産声をあげた「メツゲライクスダ」。『dancyu』では、同年の12月6日発売「肉」特集号において、当時まだ若きシャルキュティエ(豚肉の加工・販売職人)であった楠田裕彦さんをいち早く取材。以来、たびたび誌面でお世話になっている。
しかし、そこから現在に至るまでの楠田さんの躍進は、想像を遥かに超えるほどに輝かしい。2013年には、本場フランスの最優秀シャルキュティエを決める権威あるコンクールに、日本人として特別招待選手に選ばれ出場。2015年1月には「インターナショナル・ケータリング・カップ」に日本代表として挑み、魚料理部門で見事最優秀賞に輝く。さらに同年11月には、農林水産省が優れた料理人を顕彰する「料理マスターズ」を受賞するなど、その腕前は今や国内のみならず、世界中で極めて高く評価されている。2016年には「パテ・アン・クルート世界選手権」アジア予選の審査員に抜擢され、経済産業省の「The Wonder 500」にも選出されるなど、日本を代表する職人としての地位を不動のものにしている。


楠田さんは、創業当時から一貫してごく一部の例外を除き、自分が納得した国産の原料だけでシャルキュトリをつくり続けている。さらに、そのシャルキュティエという立場から、日本の畜産が直面している深刻な問題への提起や、生産者への応援も続けている。「今の日本で、真面目に実直な養豚を続けようとすれば、非常に厳しい道が待っている。自分たちも志ある養豚業者を支えたいと願っているが、現実にはコストや後継者の問題で、年々そうした生産者たちが廃業に追い込まれています」と、苦渋の表情で語る。小規模ながらも手間暇をかけ、大切に育てられた豚は、やはり驚くほどにおいしい。楠田さんによれば、そういった今の日本の畜産農業はまさに危機的状況にある。今後もエネルギーや穀物価格の高騰が予想される中、おいしいものを手に入れることが当たり前でなくなるかもしれない。消費者の立場からできることは少ないが、まずはこのような現状を知り、そして職人が命を吹き込んだいい食材をおいしく味わうこと。これもまた、大切な応援の形だ。


そんな背景はさておいても、今回の祭で提供されるこのホットドッグは絶品。主役のソーセージに使われるのは、じっくりと時間をかけて育てた親豚だ。親豚とは、繁殖を終えた雌の豚で、ほぼ市場に流通しない。豚は効率を重視して通常半年程度で出荷されるが、楠田さんいわく、それでは肉の旨味が十分にのりきらない。半年を過ぎてからさらに時間をかけて育てることでアミノ酸が増し、肉本来の深みのある濃密な旨味が生まれるのだが、親豚は1年近く育てられているから旨味が深いのだという。長く大切に育てる分、仕入れ値は跳ね上がる。「ときには牛肉に近い価格になることもあります」と楠田さん。これほどまでに力強い豚肉を使うからこそ、他にない味わいが生まれるのだ。
ドイツには1500種類以上のソーセージがあると言われるが、今回その中でもホットドッグのために用意されるのはドイツのチューリンゲン地方発祥の「テューリンガー」と呼ばれるソーセージの一つ。マジョラムを中心に数種類のスパイスと塩を絶妙に効かせ、あえて燻製は施さず、さっと加熱することで肉そのものの個性を最大限に引き立てている。祭ではこれを温めてからパリッと焼き上げ、パンにはさむ。「ドイツの屋台でソーセージを頼むと、パンを添えるか、もしくはソーセージをはさんで渡されます。パンはソーセージを食べるために必要なものなんです。日本で一般的なのはアメリカ式のホットドッグでケチャップやピクルスなどが入ることが多いですけれど、今回私たちが祭で提案するのは、ドイツ式のスタイルがベースです」。
まさに、「ソーセージを最高に美味しく食べるためのホットドッグ」だ。一口かぶりつけば、その圧倒的な豚肉の存在感に驚かされる。肉料理以上に、肉そのものを強く感じさせる鮮烈な肉の味わい! 脂が安易にジュワッとあふれ出すようなものではない。しっかりと、一心不乱に噛み締めるうちに、スパイスの香りと肉の凝縮された旨味が、じわじわと体中へ浸透していく感覚だ。ドイツの現地の流儀と同じく、パンにバターすら塗らない。添えられたフレンチマスタードが、時折アクセントを加える。ただひたすらに、澄み切った肉の旨味だけを純粋に楽しむ、そんな潔いホットドッグだ。
このホットドッグは通常、「メツゲライクスダ芦屋本店」のイートインコーナーでも親しまれている。芦屋では近隣にあるドイツパンの名店「ビオブロート」のパンを合わせるが、今回は「東京バージョン」として、都内のベーカリーと特別にタッグを組んだ。今回の祭でしか味わうことのできない、まさに一期一会のスペシャルな一品。骨太な味わいには、当然ながらキレのある力強いビールがよく合う。だがしっかりとボディのあるワイン、あるいは純米酒などとも相性が良いはずだ。ぜひ、お好みのドリンクを片手に豪快にかぶりついて楽しんでほしい!



文:杉下春子(編集部) 撮影:福森クニヒロ