
「食の外交官」とも称される公邸料理人として各国で腕をふるってきた岩坪貢範シェフと佐藤実シェフが祭に降臨。公邸会食で振る舞ったメニューや、現地の料理と食材からインスピレーションを受けて生み出したメニューが会場でつくり出されます。これまでの経験がぎゅっと詰まった公邸料理人ならではの一皿を食べ逃しなく!






世界230カ所以上にある日本国大使館、総領事館などの在外公館で、会食などの料理を担う「公邸料理人」。料理を通して外交活動に携わることから、「食の外交官」とも称される仕事だ。
「食文化の異なる国で食材探しからメニューづくり、調理、サービスなど当日の流れまで1人で采配するところに公邸料理人の醍醐味があります」と話すのは岩坪シェフ。カナダ、南スーダン、バチカンの3カ国、延べ約10年間を公邸料理人として過ごした。多彩なゲストの食習慣や宗教的背景などを踏まえた上で、会食の話題にもなる料理をタイムロスなく提供するために試行錯誤した経験は、料理人としての大きな糧になっているという。
「在任中はレストランに行くだけでなく、食材を買うときにお店の人と仲良くなって現地での使い方を聞いたりしながら引き出しを増やしました」
ゲストの顔ぶれからどんな料理をつくったら喜ばれるかを考え続けたという岩坪シェフ。身につけたホスピタリィは帰国後に開いたレストランにも生かされている。

20代から30代にかけて在ポーランド日本国大使館とスイス・ジュネーブの軍縮会議日本政府代表部の公邸で腕をふるい、50代で西アフリカのブルキナファソに赴いた佐藤シェフ。
「西アフリカは黒人のカルチャーが色濃く残る地域。特にブルキナファソは海のない内陸国なので、それまでとはまったく違う経験ができました。気軽に旅行できないような国に行けて仕事も得られるのは公邸料理人の魅力の一つですね」
どの国に行っても心掛けてきたのは、現地の食文化を深く知ること。ブルキナファソに着任した際も週4〜5回は街に繰り出し、日常の食事や日々使う食材を探究したそうだ。
「未知の料理や食材に触れることで、料理人としての知識や技術を高められます。ただ、一番向上したのは人としての幅。自分が異国人となり、現地の人たちと働くことで磨かれました」
おおらかで包み込むような優しさを佐藤シェフに感じるのは、公邸料理人として海外に出たからこそ培われた人間力なのかもしない。
岩坪シェフがつくるタリアータはバンクーバー時代に公邸会食で振る舞った料理の一つ。
「100人ほどの着席パーティーのときに、和牛を焼いて自家栽培のルッコラとともに召し上がっていただきました。シンプルな一皿ですが、とても喜ばれました」
バンクーバーの総領事館は庭が広く、バーベキューグリルがあったため屋外での会食もたびたび開いていたそう。
「肉はたくさん焼きましたね。ラグビーの日本代表チームとの会食では二十数名のゲストに対して用意した肉は30kg。それでもあっという間になくなりました(笑)」
現在は茨城県つくば市でイタリア料理店を営む岩坪シェフ。思い出の肉料理に、今回は地元食材がふんだんに盛り込まれる。牛肉は茨城県のブランド黒毛和牛「常陸牛」。サラダにはつくば産のベビーリーフや隣接する筑西市の「みくにクレソン」が使われる。フレッシュな野菜と一緒にジューシーな肉をもりもり頬張りたい。


富山県高岡市出身。茨城県つくば市にあるイタリアン「CRACRA」オーナーシェフ。都内フレンチ、神奈川のホテルのレストラン部門に勤めた後、25歳で公邸料理人となり3ヶ国・延べ約10年間勤務した。長年仕えた大使の地元であるつくば市で予約制のレストランを2024年にオープン。公邸料理人時代には日本の食文化を伝えるために日本酒も学び、SAKE DIPLOMAを取得。これまで約100軒の酒蔵を巡ったそうだ。

「ブルキナファソをはじめ西アフリカは発酵食品を料理によく使います。その点は日本に似ていますね」と語る佐藤シェフ。代表的なのは西アフリカの国民食といわれる「アチェケ」。キャッサバ芋をすりおろして発酵させたもので、ほんのり酸味があって見た目はクスクスに近いとか。魚料理に添えて、きゅうりをつけ合わせにすることが多く、その味をモチーフにつくり出されたのが鰆のクスクスサラダだ。アチェケの代わりに使ったのは、とうもろこしのクスクスやキヌアなど5種の穀物。軽く炒めたパプリカを加えて爽やかなサラダ仕立てにしている。つけ合わせの定番、きゅうりはビネガーと一緒にミキサーにかけてソースに。ふっくらとした鰆をほぐして絡めると、素朴な味わいとともに初夏を先取りしたようなさわやかさが口の中を駆け抜ける。ブルキナファソという国名を初めて聞いた人も、一口で魅了されるはずだ。
一方、仔羊のポシェは羊好きには堪らない一皿。しっとり柔らかい仔羊肉はもちろん、羊の旨味と海藻の風味が溶け合ったコンソメも飲み干さずにいられない。
「スイスではレストランで働いた時期もあり、その一軒のスペシャリテがこの料理。海藻が合いそうだなとひらめいて、帰国したときに試したらやはりぴったりでした」
2つの料理に共通するのは佐藤シェフの発想の柔軟さ。公邸料理人として経験を積み重ねてきたからこその美味を祭で体験してほしい。



福島県南相馬市出身。仙台や東京のホテルに勤め、23歳で公邸料理人に志願。4年間、ワルシャワにある在ポーランド日本国大使館に勤務後、そのままスイスへ。ドイツ語圏のチューリッヒ、フランス語圏のジュネーブとローザンヌにあるレストランで計4年働き、一旦帰国後、公邸料理人としてジュネーブにある軍縮会議日本政府代表部に1年間赴任。日本に戻ってブライダル中心のレストランに勤めていたが、「経験したことのない国に行きたい」と55歳で公邸料理人としてブルキナファソへ。還暦を迎えたのを機に区切りをつけ、今年1月帰国。今後はスローペースで料理に関わっていく予定。
一般社団法人国際交流サービス協会
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編集:出口雅美(maegamiroom) 文:上島寿子 撮影:よねくらりょう