
昨年の秋に開催された「焼酎の教室」第3回は、dancyuの焼酎史を語る上で欠かせない焼酎酒場、三軒茶屋の『五臓六腑』の高橋研さん&情(じぇい)さん親子が登壇。プレミアム焼酎が牽引した“第3次焼酎ブーム”から現在に至るまで、エポックメイキングとなった思い入れの深い6本を語っていただきます。3本目と4本目は、2人が心底惚れ込んだ“推し焼酎”を語っていただきます。

“焼酎愛”とひと口に言っても、その想いや形はいろいろ。焼酎に携わる人それぞれに、強く心を突き動かされ、焼酎とともに生きる原動力となっている1本がある。研さんと情さんはどうだろうか。「五臓六腑」と研さんを語る上で、必ず筆頭に挙がる焼酎がある。それが芋焼酎「六代目 百合」(塩田酒造)だ。蔵は鹿児島本土から西へ数十キロの甑島にあり、蔵元の塩田将史氏が6代目。江戸時代に創業した、歴史ある酒蔵である。
「渋谷で店を始めて少し経った頃にこの『百合』に出会って、これはすげえ、と。今もいちばんおいしいと思っている酒で、仲良しな蔵元さん。1年に10回ぐらい蔵へ行った年もある」

2001年にdancyuで初めて渋谷の「五臓六腑」を取材した記事でも、お薦めの焼酎として「六代目 百合」を紹介している。そこで、「百合にはスパイシーな風味があるから」と、研さんはタンドリーチキンを合わせたのだ。当時、焼酎に合う料理といえば、ご当地つながりで九州の甘い醤油を使ったものとか、揚げ物の油っ気を焼酎のキレで流すといった提案が大半だった頃。以降、私の頭の中では「六代目 百合」といえばすっかりタンドリーチキン。当然今回も、おつまみボックスのなかに入れてもらった。参加者のみなさんも興味津々。洗い流すのではなく、口中で一緒に香りが増幅していくこの感じ。ああ、やっぱりおいしい。

「塩田さんはすっごくまじめでまっすぐな人。造る焼酎は素朴でワイルドなイメージがあるけど、繊細な努力をたくさんしてる」
塩田酒造で造られているのは、「六代目 百合」の度数違い(25度、35度)と、その原酒「風に吹かれて」のみ。
「同じ酒でも毎年なりのおいしさがある。“一酒入魂”のかっこよさを貫いてる。店にも飲みに来てくれて、“俺、あと何回造れるかな”って言うんだ。店は毎日営業できるけど、酒造りは年に1回だから」
お薦めの飲み方は、やっぱりお湯割り。
「極端な話、コーラでもなんでも合う万能な酒だけど、塩田さんは出会ったときからずっと言ってた。どんな飲み方をしても、最後はお湯割りになるよ、って」


一方、子供の頃からそんな研さんの姿を見てきた、情さんにとっての思い入れのある1本はなんだろう。
「父を見ていて、うちのベースは“百合”なんだなと、ずっと思っていました。焼酎をメインに扱う居酒屋として、父はレジェンドだし、先行く者なんだ、と思いながら、いざ店に入ると、なんか社長の息子らしいよ?と見られて何もできなかったんです。当時は5店舗あったので、自分の仕事が終わると閉店がいちばん遅い店に移動して、先輩にブラインドで一から教わってました」
そうしてテイスティングを続けるなかで、情さんの心にヒットしたのが、「屋久島 大自然林」(本坊酒造)。屋久島の清らかな水を生かした芋焼酎だ。
「バランスがよくて、食中酒にちょうどいい。和食や刺身にも合うし、これを売りたい!と思いました。水割りでもお湯割りでもおいしいし、ちょっとサイダーっぽいニュアンスがあるから、いまならソーダ割りもいいかもしれないです」
心を動かす酒と出会い、先輩から「なにか発注あるか?」と聞かれて“大自然林”を1ケース仕入れた情さん。しかしそこで「仕入れるってことは、売り切るってことだぞ」と言われた。1ケースは一升瓶が6本。ほかにも何十種類と焼酎を置く店で、水割りやお湯割りで提供しながらその量を売り切るのは並大抵のことではない。その覚悟を教えてもらった1本だという。
「初めて自分からお客さんにプレゼンした焼酎。僕が惚れた酒なんです!の一言でとにかく推しまくり、売り切ることができました。しばらくして、焼酎の会で蔵元さんに直接この話を熱く語って。店にも飲みにきてくれたのは嬉しかった」
情さんがしみじみ言った。
「旨いと思った酒って、勝手に減っている。惚れた酒は売ることができるんですよね」
どんな世界でも、推しの存在があれば仕事やプライベートに張り合いが出るというもの。こんな親子が営むお店、こっちも推すしかなかろう。次回4時限目は、研さんが語る“造り手の魅力”についての話。
文:鹿野真砂美 撮影:伊藤徹也 構成:林律子