
昨年の秋に開催された「焼酎の教室」第3回は、dancyuの焼酎史を語る上で欠かせない焼酎酒場、三軒茶屋の『五臓六腑』の高橋研さん&情(じぇい)さん親子が登壇。プレミアム焼酎が牽引した“第3次焼酎ブーム”から現在に至るまで、エポックメイキングとなった思い入れの深い6本を語っていただきます。ラスト、6本目は、今こそお湯割りを薦めたい高良酒造の「八幡」について。

「五臓六腑」の高橋研さん、情さん親子に、時代を映す焼酎をそれぞれ3本ずつ選んでもらい、飲みながら大いに語ってもらう今回の「焼酎の教室」。杯を重ねながらの2人の気取らぬ話に会場全体の空気もほぐれ、研さんはもうべろんべろん。そろそろ最後の1本にいきますか。
情さんが「これからの若い人たちに飲んでほしい焼酎」として選んだのは、鹿児島の高良酒造が造る芋焼酎「八幡」だ。dancyuの誌面にもたびたび取り上げられ、これがいちばん好き、と言う人も多い名焼酎。情さんが再び注目し、これから先に飲んでほしい1本として挙げた理由は、どういうところなのだろう。
「僕がこの前に挙げた『安田』と『大自然林』は、焼酎に興味を持ってくれた人への入口の酒。父や先輩たちから教わりながらいろいろ飲んできたけれど、僕の世代は僕の世代で、こうした入口となるものをちゃんと伝えつつ、それをフックにして、この先のこともしっかり伝えたい。芋なんて臭いでしょうとか、苦手意識や飲まず嫌いをなくしたい。ということで『八幡』なんです」
高良酒造は、4代目当主の高良武信さんを中心に、家族経営ですべてを手造りしている小さな蔵。南九州市の川辺町は名水100選に選ばれるほど豊かな水をたたえる土地として知られ、蔵の敷地から湧き出るその水を焼酎の仕込みにも使っている。以前、蔵で湧き水を飲ませてもらったことがあるが、スーッと全身に沁み渡るように清らかで柔らかい。二日酔いにはイオン飲料よりこの水のほうが効きそうである(ね、研さん)。「八幡」の原料はこの水と、地元で育てた芋に白麹だ。一般的に黒麹で造る焼酎はシャープでインパクトも強く、白麹は優しい仕上がりになると言われるが。
「『八幡』は白麹でもすごくパンチがあります。お湯割りがめちゃくちゃ旨いんですよ。正直に言うと、店に入った20代の頃はお湯割りに対してのアプローチをサボっていたんです。父が焼酎をやってくれていたから、それまでの付き合いで酒屋さんに頼めばいろんな焼酎が入ってくる。それに甘えて現場でしっかりとお湯割りに向き合えてなかった。それが5年くらい前かな、『八幡』のお湯割りをあらためて飲んだときに、うわ、なんだこれ!って。すぐ、店に入った当時にいろいろ教えてもらってた先輩(現在、三軒茶屋で「太子堂 かご」を営む市堀浩章さん)に連絡して、『八幡』めちゃくちゃ旨いです!って伝えました」
酒が変わったわけではない。情さん自身に、考えの変化があった。
「ずっと旨い酒を造り続けてる、無骨に本質的なものを突き詰めている蔵元です。この数年、ソーダ割りから焼酎に入る人が増えて、僕自身も、いま売れるものを売ろうとしてきたけど、その先にこれがあるんだな、お湯割りっていう魅力があるんだなって再確認して、次のフェーズに僕自身が入るきっかけになったんですよね。先に進めるきっかけをもらったというか」

「俺もちょっといい?」と研さん。
「本当は今回、俺が挙げたかった酒なんだけど、情がやるって言うから譲ったの。白麹でこんな旨い酒ないし、温度高めのアチアチで飲んでもおいしい。ポテンシャルのある酒なんだよね。アチアチにして味が壊れちゃう酒……というのはちょっとね」
ポテンシャルで思い出したが、この会の開始前に、研さんは6本すべての“詰め口”(焼酎がボトルに詰められた年月)を確認し、同じ銘柄の詰め口違いがあれば両方味見をして、どちらを提供するか決めていた。
「焼酎って簡単に劣化しないと言われるけど、やっぱり長く置くうちに少しずつ風味は変わってくる。その酒のポテンシャルが現れる部分だよね。お客さんはそんなこと考えなくていいんだけど、店としてそこまで考えて提供できるか。僕らはそういうところにいきたいなって思ってる」

情さんも続ける。
「焼酎を売る上で、確かに知識はいるんです。いろんな知識を持って売り込んではいるけど、結局は熱量。好きなことがいちばん。不思議なんですよ。全部を平等に売ってるつもりでも、自分が旨いと思っている酒が減っていく。やっぱり惚れ込むことが原点なんだなあって思います。飲み方もいろいろあるけど、やっぱり原点はお湯割り。同じお湯割りを飲んで、これダメだ、と思う人と、うわあ、いい香り!って思う人がいる。そこをね、少しずつわかっていってもらうのが、これからの僕の課題です」
登壇者が率先して飲みまくり酔っ払うという会になったが、参加メンバーも「焼酎が好きだけど背景とかは知らなくて。今回はストーリーを知ることができてよかった」、「九州出身でソーダ割りにはちょっと乗り遅れてた。オーソドックスな酒といまの酒を飲み比べできてよかった」と、嬉しい感想をもらえてひと安心。
ただ飲むだけではなく、それを育む土地や造る人のことをほんの少し知るだけで、目の前の焼酎への親しみがぐんと湧いてくる。そんな楽しみを教えてくれた研さんと情さんに感謝。このあと研さんは、すやすやと夢の中へ飲みに出かけました。

文:鹿野真砂美 撮影:伊藤徹也 構成:林律子