
「西麻布の路地裏にある酒のセレクトショップで、時々、焼酎の角打ちイベントが開催されていて、毎回行くんですよ」と、日本酒と焼酎が大好きな、dancyu食いしん坊倶楽部メンバーのりゅういちさん。彼が必ず足を運ぶというイベントの様子に潜入レポート!
今回は「焼酎の教室」の番外編。ということで潜入したのが、お忍び感が過ぎる街・西麻布の知る人ぞ知る店。『美味しいお酒のセレクトショップ 兎と寅』は、本格焼酎にワイン、日本酒、スピリッツやリキュールなどが充実した酒屋だ。
「ニューヨーク・ブルックリンのギャラリー?」と見紛うほどの天井高の空間で、おまけにキッチンまで併設された、酒屋の概念を軽く超えてくる場所。ここで不定期開催されるのが、ツウも唸る稀少な銘柄や、おつまみプレートを準備して行われる焼酎の角打ちイベント「Drink me,Shochu」だ。焼酎好きが高じてオリジナル焼酎まで造った『兎と寅』代表のナオカさんが運営し、この日は、2007年からニューヨークで焼酎ソムリエとして活躍するAYAさんが注ぎ手として参加する特別な一夜だった。
りゅういちさんは、『高輪ゲートウェイシティ』で行われた日本酒と焼酎のイベント「混祭2025」に訪れた際にAYAさんと出会い、焼酎への情熱と知識量に感嘆。りゅういちさんも焼酎が大好きだが、このイベントでは基本、飲む銘柄と飲み方はAYAさんにおまかせしているとか。
「自分で注文するだけだと、知っている銘柄しか飲まなくなりますから。それに詳しい方に好みや疑問を伝えることで、新たな知識も得られる。これも、おまかせの醍醐味ですよ」
ちなみに焼酎はAYAさんの解説付きで1杯550円~と、かなり良心的な価格設定だ。
新作の芋焼酎を続々とリリースする宮崎県『落合酒造場』から、オレンジ芋のタマアカネを使った「SWEET MONSTER」、紫芋のムラサキマサリで醸した「UNICORN COLOR」が発売されたということで早速飲み比べすることに。
前者は6月1日に発売されるや、即完売。後者も売り出されてから日が浅いが、爆発的に売れているのだとか。どちらもソーダ割りがおすすめで、フルーティなフレーバーを楽しむ、香り系の焼酎だ。
まずは「SWEET MONSTER」を。「うまい!」と深く頷くりゅういちさん。
「オレンジ芋を原料にした焼酎です。紅茶のようなニュアンス、パッションフルーツに似た香りもありますが、いかがでしょう?」。AYAさんが説明を加える。
「いやぁ、この芋焼酎、口に残る上品な余韻が素晴らしい。上質なフルーツティーのような風味が、延々と口内に残る。『SWEET MONSTER』という名前の由来が、よくわかる1本ですね」と、りゅういちさんは感心しきりだ。
「そうなんですよ、この焼酎、香りの余韻が長いから、私はお湯割りにするのもいいと思っているんですよね。試しにもう1杯、どうですか?」(AYAさん)
「いやいや、今日はまだまだ先が長いですから(笑)。次の機会に試してみます」(りゅういちさん)
お次は「UNICORN COLOR」。紫芋のムラサキマサリを原料にして、マスカットに似たフルーティーな香りを生み出している、と説明するAYAさん。
「ムラサキマサリが原料の焼酎の特徴、乳酸っぽさが控えめですね。あと、雑味が皆無。マスカットの芳香が際立って、グビグビ飲める。夏に飲んで爽やかな心地になれる焼酎ですね」と、りゅういちさんは「UNICORN COLOR」をそう評する。
さて、芋焼酎の新作で涼やかな心地になったら、ここからの焼酎の展開はAYAさんにおまかせすることに。
「次は“ソーダ割で究極に美味しい麦焼酎”はいかがでしょう?その高みを目指して造られたのが、福岡県『株式会社天盃』5代目の多田匠さんが醸す、『天盃 炎ラベル Ver.5.0』です」(AYAさん)
こちらの蔵を代表する銘柄が、福岡・佐賀県産の二条大麦だけを使用して、2回の常圧蒸溜で麦の風味をクリアに引き出した「天盃」。ここから派生した商品が、ロック向きの「天盃 炎ラベル Ver.4.3」(4代目がつくる3作品目という意味)で、そのバーションアップ『Ver.5.0』は2021年に蔵に戻った若き5代目による進化版だ。
「ひと口飲むと、まるで身体中に麦を浴びているよう。麦の風味がとにかく濃厚です。それでいて、とても飲みやすい。後味にキレがあるので食中酒としても最適です」(りゅういち)
「ソーダ割りが3杯続いたから、お腹がいっぱいになってきた」と言いながら、杯が止まらない様子。
そして、この角打ちイベントに華を添えるのが、ナオカさんお手製の「おつまみプレート」。まず「京都あおさのり刺身こんにゃく酢味噌添え」など、焼酎に合うおつまみが数種のった前菜が出て、さらに宴の半ばには「トマトたっぷりチキンビリヤニ」まで供される。これで合わせて2,200円。何ともお得なプレートなのだ。
その前菜の盛り合わせのあとに提供される、ビリヤニ。ナオカさんが「大のスパイス料理好き」ということで、「ぜひ、この皿に合わせてほしい『兎と寅』オリジナル芋焼酎がある」と言う。
「鹿児島県薩摩川内市の『オガタマ酒造』さんで仕込んでもらっているのが、芋焼酎『ユアマイスイートポテト』です。この焼酎(略して“ユアポテ”)は、黒麹ならではのどっしりとしたコクと、紅はるか芋の甘くフルーティーな香り、そのバランスを極めるために、シェリー樽で熟成させた琥珀色の焼酎を、天才ブレンダー草道さんが絶妙にブレンドしてくれているんです」(ナオカさん)
「『この料理に合わせてほしい!』、その料理を目がけて造った焼酎があるというのは、ユニークでいいですよね」と、“ユアポテ”に興味津々な、りゅういちさん。
一方で、宮崎県『柳田酒造』の大麦焼酎「青鹿毛」を日頃から愛飲しているため、これもビリヤニに合わせたいという。
「まず“ユアポテ”。香り高い焼酎が、ビリヤニの味わい要素すべてをまとめ上げる役割を果たしていて、これは間違いなく合いますね。あまりにベストマッチングなので、知り合いのスパイスカレー屋に持って行きたいくらい(笑)」
お次は「青鹿毛」とのペアリングについて――。
「『青鹿毛』を置いてあるアジア料理店があって、めずらしいなぁと思って一度、試してみたことがあるんです。そうすると料理がもつ鮮烈な香りと、『青鹿毛』の濃厚な麦のフレーバーがお互いの風味を高め合って、より個性的なマリアージュに感じられた。このビリヤニも『青鹿毛』とペアリングすると、よりスパイシーさやトマトの甘味が際立ちます」
そろそろ宴もたけなわ。りゅういちさんが「では最後の一杯を」とAYAさんに告げると、とびっきりの1本をおすすめしてくれる。
「6月7日にリリースされた『柳田酒造』の『千本桜 熟成ハマコマチ 2025』で締めましょうか。オレンジ芋のハマコマチを土付きのまま蔵の敷地内の専用貯蔵庫で保管、熟成させてから、造りに使用しています。これ、りゅういちさんが好きな銘柄ですよね?」とAYAさん。
実際、りゅういちさんは、この焼酎の造り手、杜氏の柳田正さんにイベントで何回か会ったことがあって、銘柄のみならず、その人柄にも惚れ込んでいるんだとか。
「うまい!もう、うまいとしか言いようがないですね。濃厚でありながらも上品な芋の甘味と香りに、唸らずにはいられません。今回は香りを楽しむべくお湯割りでいただきましたが、ソーダ割りや水割りでも、凛と味わいが立ち続けると思います」(りゅういちさん)
「普段は気軽に飲めない焼酎をスペシャリストの解説付きでいただけるのが、『兎と寅』の焼酎角打ちイベント『Drink me,Shochu』です」。それが理由でこの会に通っていると、りゅういちさんは、再び力説する。
希少な銘柄の焼酎を飲んで、ソムリエから話を聞くだけでなく、集まった焼酎好きと意見を交換できるのも、また面白い。開催は不定期だが、ぜひ『兎と寅』のInstagramをまめにチェックして、この貴重な会に参加してみてはどうだろう。
文:岡野孝次 撮影:五十嵐一晴