
鹿児島が誇る本格焼酎メーカー「濵田酒造」が2年ぶりに出店。人気上昇中の「だいやめ~DAIYAME~」を筆頭に、新感覚のボタニカル系麦焼酎「CHILL GREEN」など、“香り”にスポットをあてた人気の銘柄が勢揃いします。先んじて、焼酎好きが集う「居酒場 IGOR COSY 神泉」で焼酎のアテンドをする桜井茜さんと渡辺小夏さんが試飲。味わいの魅力や飲み方などをレクチャーしてもらいました。新たな潮流を生む焼酎を祭の会場でぜひご体験あれ。
明治元年(1868年)創業の「濵田酒造」は焼酎王国・鹿児島を代表する本格焼酎メーカーだ。そのラインナップは「薩州 赤兎馬」や「伝」のような本格焼酎の極みといえる品から、「だいやめ~DAIYAME~」に象徴されるモダンで洗練された品まで多種多様。なぜここまで幅広い味をつくれるのだろう。実は、同社には3つの蔵がある。創業以来の伝統的な焼酎づくりを行う「伝兵衛蔵」、最新設備を導入して革新性に富んだ「傳藏院蔵」、金山跡地を利用した「金山蔵」。伝統・革新・継承という同社の理念を体現した3つの蔵がそれぞれの特色を発揮することで、個性が際立つ焼酎を生み出せるのである。
「傳藏院蔵」では、本格焼酎の新たな可能性を探究している。冒頭に挙げた「だいやめ」はこの蔵の代表銘柄。誰もが驚くのは、ライチに似た華やかな香りだ。同社の谷本章さんによれば、この香りはもともとさつま芋が備えているもので、これを前面に押し出すために、独自の熟成法で香気を十分に引き出した「香熟芋」を開発。芋焼酎のイメージを一新する商品が誕生したのである。
黒で統一したスタイリッシュなボトルデザインも新しさを印象付ける。本格焼酎に馴染みのない若い人たちに手に取ってもらうのが目標だったそうだ。
「芋焼酎はお湯割りのイメージが強いのですが、あえて炭酸割りを推奨したのもそのため。だいやめとは『晩酌して疲れを癒やす』という鹿児島の方言ですが、現代のだいやめにふさわしい焼酎にしたいと蔵をあげて取り組みました」と谷本さんは語る。
発売から6年経った現在は若い層も取り込んで、“香り系”という新たなジャンルを生み出している。その味わいは海外でも認められ、世界三大酒類コンペティションを総なめにするほどだ。
そんな香りの焼酎の新機軸が、ボタニカル系麦焼酎「CHILL GREEN」である。昨今、SNSでは「チルする」「チルい」といった言葉が飛び交うが、ネーミングはその語源である「chill out」に由来。「落ち着く」「リラックスする」という意味の通り、ゆったりくつろぐときに寄り添う焼酎だ。
特徴はボタニカルが醸し出す香りにある。第一弾の“spicy & citrus”は、台湾の原住民「タイヤル族」が古くから愛用してきたとされる香辛料「マーガオ」を焼酎にプラス。レモンを思わせる清涼感のある香りと、山椒に似たピリッとスパイシーな風味が爽やかだ。
これに続いて今年2月にリリースされた“bitter & tropical”には「ギャラクシーホップ」を使用。ビールの原材料として知られるホップの品種は300種類以上あるといわれ、なかでもギャラクシーホップは希少種。甘い柑橘の香りとホップ特有のほろ苦さをクラフトビールで体感したことがある人は多いだろうが、ギャラクシーホップの使用は焼酎業界でも珍しく、先駆けである。
どちらもボタニカルの香りを加えている点でジンに近い印象だが、香りをつけるタイミングが違うと谷本さんはいう。
「ジンの場合、蒸留したのちに香りをつけて再蒸留するのですが、『CHILL GREEN』は発酵する醪(もろみ)に香りづけをして、その後に蒸留をします。もっとも、当社ではかなり前からクラフトジンの製造も手がけ、そのベースがあったからボタニカルで香りをつける発想も生まれやすかったとはいえますね」
これらの“香り系”本格焼酎に加えて、ブレンド技術で個性を開花させた商品もある。2023年に発売した麦焼酎「うかぜ」がそれだ。
この品に使われるのは4つの原酒。麦焼酎らしい風味の「芳薫原酒」、マイルドでコクのある「樽熟原酒」、紅茶のような香りとスムースな口当たりの「芳醇原酒」、フルーティーでクリアな甘味の「淡麗原酒」を1%単位で緻密に調和させている。甘く芳ばしい味わいと飲み方や温度帯で変わる風味は、文字通り、麦焼酎に新風を吹き込んでいる。
「傳藏院蔵」が生み出したこれらの4本を飲食のプロはどう味わうのか。足を運んだのは「居酒場 IGOR COSY 神泉」だ。洒落た外観はビストロのようだが、扉を開けるとカウンターには焼酎の一升瓶がずらり。本格焼酎は常時70銘柄前後が揃い、フレンチやアジアンなど多国籍なエッセンスを加えたカジュアルな料理とともに楽しめる。
カウンター内のキッチンに立つ店長の桜井茜さんとスタッフの渡辺小夏さんは料理担当兼焼酎の水先案内人。好みや焼酎経験度などから最適な1本を選び、飲み方の提案もしてくれる。ディープな焼酎ファンばかりでなく、ビギナー客も多いのは柔軟で楽しいアテンドの賜物だろう。
早速、お二人に4本の魅力や飲み方などを教えてもらった。
まず試飲したのはニューフェイスの「CHILL GREEN bitter & tropical」だ。
「柑橘の香りが心地よくて、ほろ苦さがあるからすっきり飲めます」と桜井さんがいうと、渡辺さんも頷いて「ギャラクシーホップを使っているからか、クラフトビールに近い感じがしますね。でも、焼酎だから飲み疲れしません」と同意。爽快さを楽しむなら炭酸割りで。トニックウォーターで割ればグレープフルーツサワーのような飲み心地になるという。
「トニックウォーターと炭酸を半々で割るのがコツ。焼酎の優しい香りが生きてきますよ」(桜井さん)
合わせたい料理は「断然、サーモン!」と渡辺さん。
「フライにしてタルタルソースをつければ相性はバッチリ。香草焼きにしてもいいですね」
続く「CHILL GREEN spicy & citrus」は店でも人気の1本とか。
「ふわっと鼻に抜ける香りがとにかく爽やか。すっきりしているので1杯目でもいいし、飲み疲れしたときの味変にも向きますね」(渡辺さん)
「食事に合わせるだけでなく、グラスを片手にまったりしたいとき、まさにチルするときにぴったりです」(桜井さん)
香りと味わいを満喫するなら炭酸割りがイチオシ。
合わせる料理はエスニック、特にハーブをたっぷりのベトナム料理で意見が一致した。
「生春巻きや魚介を使ったものが合うと思います。あと、塩ビーフンもいいかも」(桜井さん)
3本目の「だいやめ」はお二人にとって思い入れのある1本だという。
「実は、私たちが焼酎に目覚めたきっかけがこれ。初めて口にしたときライチのような香りに『焼酎ってこんなにフルーティーなの?!』と衝撃を受けたんです。だから、焼酎を飲む機会のなかった方には『だいやめ』を薦めることが多いですね。海外の方にも好評なんですよ」(桜井さん)
飲み方は炭酸割り一択かと思いきや、「ナカソト割りにも合うんです。特にバイス(シソ梅エキス入りの甘酸っぱい割り材)はびっくりするほど相性がよくてジュース感覚のおいしさ。どんな味も受け止めるのは、ポテンシャルが高いからでしょう」(渡辺さん)
最後に飲んだのは麦焼酎の「うかぜ」。甘芳ばしい味わいはお二人のお気に入りとか。
「割り方によって味わいが変化するので、最初はフルーティーな水割り、間に炭酸割りを挟んで、最後はコクを楽しめるお湯割りにすると晩酌はこれ1本で完結します。個人的にはほっと和めるお湯割りで飲むのが好きですね」(桜井さん)
一方、渡辺さんのマイベストは冷たい麦茶割り。柔らかい甘芳ばしさがさらに持ち上がるそうだ。
今回紹介した4本はいわば焼酎ワールドの最先端。焼酎は未体験の人はもちろん、最近はご無沙汰という人も飲めばその進化を実感できるはず。祭の会場で新たな酒の扉を開いてみよう。
※飲酒は20歳になってから。妊娠中や授乳期の飲酒は、胎児・乳児
編集:出口雅美(maegamiroom) 文:上島寿子 写真:広瀬貴子