東京・西麻布にある「レフェルヴェソンス」は、日本のフレンチを牽引する生江史伸シェフが率いるグランメゾンだ。普段ではコースでしか味わうことのできないお店の味を、数量限定でお届けします!
世の中に「サステナブル」という単語が知れ渡るずっと以前から、生産者との信頼を深め、レストランでのスタッフの働く環境にまで繋げて配慮してきたのが、「レフェルヴェソンス」のシェフである生江史伸さんだ。
「レフェルヴェソンス」は優雅なグランメゾンである。しかし、これ見よがしな高級店ではない。出てくる皿の上には、野菜をはじめ、その食材の生産者が胸を張って自分の育てたものを披露し合っている光景がある。調理する指揮者がいなければ成り立たない完成度の高い料理だが、もとより、いい素材がなければ存在しない料理たちでもある。
それを何よりも物語っているのが、定番の美しき品。“敬愛するアルチザン”は、信頼するたくさんの生産者がつくった、数十種類の季節の野菜のサラダだ。素材の良さが引き出されているというより、素材そのものを競演させる。
そして“定点”は、食材を通して四季の味わいの変化を感じることのできるスペシャリテだ。毎回同じ方法でじっくりと時間をかけて火入れすることで、その季節ならではの蕪の甘さや辛味といった味わいを際立たせるのだ。
最近のニュースは、厨房に念願の薪窯が入ったこと。薪には適度な水が含まれ、肉や魚が肉や魚がよりしっとりと香りよく仕上がるという。薪を使うことで間伐材を消費し、林業を支え森を守ることで、CO2の排出量を減らしたいという思いもあるのだという。
今回生江シェフが祭で提供する2品に使う鹿は、三陸海岸の最南端から仕入れる。太平洋に飛び出した牡鹿半島に生息する鹿を、信頼するハンターが駆除目的で射止めたものだ。
鹿肉は最良の手当を施され、適正な熟成を経て、薪窯でゆっくりと火入れされほのかな香りを纏わせる。その肉を薄くスライスし、姉妹店である「ブリコラージュ」で人気の「農民パン」の生地でつくったホットドッグ状のパンに詰める。
肉の下には、ディルやエストラゴン、ミントなどを混ぜたコールスローが。上には、鹿肉と同じ牡鹿半島でレストランスタッフが摘んだ天然の山椒や韓国産唐辛子、赤ワインを使って作った、辛味のあるソースをかける。
見た目の美しさも含め、まるでレストランでの一皿がパンに詰め込まれたようである。コールスローからは清涼感あるハーブの香りが広がって、少しの臭みも固さもない肉は、しっとりとしながらも野生の旨味がある。複雑なソースの辛みが時折アクセントとなり、柔らかくて食べやすいのに小麦畑の風景が浮かぶように香りの強いパンが全てを包み込む。
「さすがは“レフェルヴェソンス”のサンドイッチ!」そう叫ばずにはいられない逸品だ。
さらに、鹿肉を処理した時に出る筋などは、煮込んでコンソメスープに。菊芋や牛乳、生クリームも入り、サラッとしているが程よいコクがあって、いくらでも飲めそうだ。
駆除した鹿を大切に使い尽くす姿勢、間伐材を使って熱源にし、森を育む薪窯。優雅な高級店が、通常のコースの中で出す皿の数々には、生産者を大切にし、地球を守ろうとする姿勢とメッセージが込められている。サステナブルを店のオープン時から実践してきた生江史伸シェフの姿勢は、これらの2品にも存分に反映されている。
※当日は内容や盛り付けが変更になる場合もあります。
文:浅妻千映子 撮影:伊藤菜々子、海老原俊之、牧田健太郎