旬の食材の持ち味を生かしたナチュラル中華が味わえる、清澄白河の「O2」。dancyu祭では、それぞれの素材の味が際立つ3種の焼売(黒胡椒、ラムミント、ふきのとう)を販売。次世代中華の真骨頂を、ぜひ体感してください!
オールド中華でもなく、ヌーベルシノワでもない。「次世代中華」の代表として輝き続ける一軒が、「О2」だ。オープンして4年が経つが、店主・大津光太郎さんの料理にブレはない。「一口目のインパクトよりも、すべて食べ終わったときに美味しかったと言ってもらえる」味を、大津さんはずっと目指してきた。
砂糖や油はごく控えめに使い、唐辛子の辛味やスパイスの強い刺激に頼りすぎない。ハーブの爽やかな香りは積極的に取り入れつつも、あくまでも食材の持ち味を引き出すための補助的な役目に押さえる。
前菜3種からはじまり、スープ、野菜、魚介、肉料理と進むコースは、中華に感じがちなどっしりとした「重さ」とは無縁。全体を通して満足してもらえるよう、緻密に組み立てられている。
重鎮・脇屋友詞シェフのもとで15年研鑽を積んだ経験から、中華の基礎は盤石だ。ここに、さりげない独創性が加わっているのも大津さんの料理の特徴である。アラカルトのメニューにはいわゆる定番が並ぶが、たとえば「麻婆豆腐」なら、豆腐の合間にあられに切った長芋を忍ばせて意外な食感で楽しませたり、「焼売」のあんには季節の食材を混ぜ込んだりすることも。以前いただいた早春の焼売には、フキノトウがたっぷり加えられており、口いっぱいに広がる芽吹きの香りに、しばし陶然としたのをおぼえている。
「О2」のシグニチャーともいえる「叉焼」は、“焼きたて”が身上。ハマナスの花の酒で華のある香りをつけ、熱々とろとろの肉に、溶かした麦芽糖で優しい甘味のベールをかける。ごくりと飲み込んでしまうのが惜しい逸品である。
料理にはぜひ、自慢のナチュラルワインを合わせたい。ボトルでの注文もよいが、ソムリエの大竹智也さんに相談すれば、料理に合わせてグラスで提供してくれる。前述の叉焼には、ワインのほか、「メスカル」という変化球を投げてくれることも。スモーキーな香りと蒸留酒ならではのきりっとしたアルコール感が濃厚な叉焼によく合う。
「気がつけば4年が過ぎていた」と大津さんはふり返る。コロナ禍もあって存分に料理できない時期もあったが、歩みを止めることはなかった。今年から新たなことにもチャレンジしたいと意欲的だ。そのひとつが、週末のみ営業する「大津洋菓子店」だ。ジャスミンの香りやスパイスをきかせたカヌレが早くも評判を呼び、すでに行列必至となっている。現在、大竹さんセレクトのナチュラルワインの販売も計画中だという。2月に40歳の誕生日を迎えた大津さん。「不惑」を体現するように、迷いなく、気負いなく、走り続ける。
※当日は内容や盛り付けが変更になる場合もあります。
文:佐々木香織 写真:伊藤菜々子、川原﨑宜喜