東京・喜多見にある「ビートイート」は、猟師である店主が仕留めた上質の獣肉のみを料理する、知る人ぞ知るジビエの人気店。dancyu祭では、蝦夷鹿と猪肉のWジビエカレーを1F奥のカレーコーナーで提供します!
小田急線喜多見駅から歩いて1分。わずか7席のカウンターを目指して、全国からジビエ好きがやってくる。店主の竹林久仁子さんは料理人にして猟師。猟期の冬は群馬、長野、北海道へと出かけて行き、“食材”を仕留めて料理する。「ジビエは、年齢や雄か雌かはもちろん、棲む場所や食べているもので味は変わります。仕留め方も重要で、気付かれないように急所を撃ち、すぐに血抜きをして。ただ、血抜きはしすぎても味が落ちるんですね。猟師にならなければ知らなかったことばかりです」。
キッチンに立つとき、常に頭に置くのは、肉の味をいかに生かして高めるか。野生の肉は自然からのいただきもの。おいしくする責任があるからだ。その手段の一つとして、この店にはカレーがある。竹林さんは、インドの伝統的医学「アーユルヴェーダ」をベースにしたスパイス料理研究家の香取薫さんに師事。一方で、マクロ・ビオティック(以下マクロビ)のインストラクターの資格も持ち、その中でもスパイスの使い方を学んだ。
マクロビを始めたきっかけは十数年前、交通事故で大きな怪我を負ったことにある。「リハビリをしても思うように治らず、動けないから20㎏ぐらい太ってしまって。マクロビの勉強をして、食がいかに大切であるかを痛感しました」。以来、自分の体を健やかに保てるものだけを選んで食べるようになったが、ネックになったのは肉。市販されている肉にオーガニックを求めるのは難しく、体質にも合わなかった。そこで目を向けたのがオーガニックミートといえるジビエ。ただし、簡単に手に入るものではないことから、「だったら、自分で獲りにいこう」と思い立って猟師になったのである。
2016年にオープンしたこの店でも、基本的に竹林さん自身が食べたいもの、食べられるものだけを出している。ランチに用意されるのは、肉、魚介、野菜のカレーと、スペシャリテの鹿のキーマカレー。単品でも頼めるが、全部を盛り込んだミールスが人気だ。夜はコース料理が主体となり、鹿肉ならローストしたり、フライにしたり。猪肉は鍋で振舞うこともある。内容はその時々で替わるが、〆の一品は決まってカレー。心地よい締めくくりに欠かせない一皿なのである。
野菜料理も魚料理も柔軟にこなす竹林さんだが、その真骨頂といえるのはやはりジビエとカレー。dancyu祭では、普段店では出さないスペシャルなジビエキーマカレーが披露される。使うのは、自らの手で仕留めた北海道の蝦夷鹿と長野の猪肉。蝦夷鹿でベースのカレーをつくり、そこに猪肉の旨味を重ねる二段仕込みの手の込んだ一品だ。野生のエネルギーが宿る力強さを備えながら、味わいはピュアでナチュラル。「このカレーは肉を味わうためのもの。鹿と猪の味が生きるよう、スパイスは風味を添える程度にしています」と竹林さん。
そのカレーとタッグを組むライスがまたすごい。米の品種は“ハッピーヒル”。著書『わら一本の革命』でも知られる自然農法の父、故・福岡正信さんが開発したアジア米と日本米を交配させた希少品種だ。日本の土壌では栽培しにくいこの米を細々とつくり続けてきた生産者から、「絶対、ここのカレーに合うから」と送られてきたのが縁で使うようになったのだという。粒がしっかりして、あっさりしながらもカレーに負けない旨味を奥に秘めている。しっかりと噛み締めて味わいたい滋味なるジビエのカレーライスで、ぜひパワーチャージを!
文:上島寿子 写真:富貴塚悠太