家庭で“野菜天ぷら”をおいしく揚げる方法
甘くてシャキシャキな"玉ねぎの天ぷら"

甘くてシャキシャキな"玉ねぎの天ぷら"

衣と油を駆使して、野菜のポテンシャルを引き出す調理法天ぷら。今回は東京・外苑前にある天ぷら屋「元吉」の店主・元吉和仁さんに、野菜天ぷらをおいしく揚げる秘密を習いました。

天ぷらの腕が“カラッと"上がる4つの秘訣

天ぷらは「野菜をおいしく食べるための優れた調理法です」。こう話すのは東京・外苑前の「天ぷら元吉」の主人、元吉和仁さん。天ぷらにすれば、野菜の甘味や香りが引き出されて香ばしさも加わる。薬味に使うような地味野菜でも、堂々主役を張れるのだ。
天ぷらづくりで最も重要なのは衣。「これができれば、成功したも同然です」と元吉さんは断言する。ポイントは薄い衣の上に濃い衣を重ね、その野菜が一番引き立つ厚さにしてやること。やや難しく感じるかもしれないが、大丈夫。野菜は魚介に比べておいしさのストライクゾーンが広いので、初心者でも失敗しにくい。
玉ねぎ、しそ、なすなど身近な野菜も、元吉さんの手法で揚げれば、香りや食感が劇的に変化する。野菜に惚れ直すこと請け合いだ。

1.水分の少ないものから揚げる

一品ずつ揚げたてを出す店と違い、家庭では食べるまでのタイムラグが課題。ほかのものを揚げるうち、先に揚げた天ぷらの衣がふやけて台無し、なんてことも。「衣がふやけやすいのは水分の多い野菜。水分の少ないものから順に揚げれば解決です。揚げたらすぐ半分に切って蒸気を逃がすといいですよ」と元吉さん。

2.衣の材料は、粉まで冷やしておく

サクッと歯切れのよい衣は、おいしい天ぷらの決め手。それには衣の材料の温度管理が重要になる。「水と卵はもちろん、薄力粉も冷蔵庫でしっかり冷やします。衣がもそっと重くなる原因は、小麦に含まれるグルテン。冷やしておけばグルテンが出にくくなるんです」。後から足す薄力粉も冷やすことを忘れずに。

3.衣は混ぜすぎず、粉っぽさを残す

衣は混ぜすぎ禁止!小麦粉に含まれる粘りのもとのグルテンが出て、フリッター状のモコモコした衣になるからだ。「混ぜ加減は粉っぽさが残る程度。ダマがあっても構いません」。小麦粉の種類はグルテンの少ない薄力粉を。衣をつける前に下地として薄力粉をまぶすこと。衣が密着し、蒸し揚げ状態が保てる。

4.底の厚い、大きな鍋で揚げる

鍋は温度を一定に保ちやすい厚手のものを。「直径27cm以上が理想ですが、家庭では24cmくらいでしょうか。中華鍋は大きいけれど薄いので不向きです。材料を隙間なく入れると温度が下がるので注意」。揚げ油は5cm以上の深さまでたっぷり用意。サラダ油に焙煎胡麻油を2~3割加えると甘味と香ばしさが引き立つ。

基本の天ぷら衣のつくり方

おいしさの七割は「衣づくり」で決まります!
衣で包んで揚げることで食材を“蒸す”のが天ぷら。火の通り方が変わってくるため、衣はとても重要です。薄い衣、濃い衣の順に二重につけてしっかり密着させるのがコツ。下着、上着の順に野菜に服を着せてやるような感覚です。洋服と同じで、その野菜に合う濃度の衣を着せれば、持ち味が引き立ちます。ボウルの中で衣の濃度に差ができるよう、たっぷりつくります。

材料材料 (つくりやすい分量)

★ 卵水
・ 冷水360ml
・ 全卵1個
・ 卵黄1個分
冷水600ml
薄力粉340g
薄力粉80~100g(調整用)

1ふるう

薄力粉は冷蔵庫でよく冷やしておく。使う直前に取り出し、すべてザルでふるっておく。

ふるう

2卵水をつくる

冷水(氷水でもよい)に全卵と卵黄を割り入れて泡立て器でよく混ぜ、卵水をつくる。

卵水をつくる

3薄力粉を混ぜる

2 から200mlを取り分け、冷水600mlを注ぎ、薄力粉340gを5 ~6 回に分けて加え、その都度粉っぽさがなくなるまで混ぜる。グルテンが出ないよう、泡立て器を寝かせて8の字を描くようにさっくりと混ぜる。

薄力粉を混ぜる

4衣に濃淡をつける

表面に、調整用の薄力粉20g程度を薄く広げ、表面を叩くように混ぜ、上のほうは濃く、下は薄くなるようにする。ここでは粉っぽさが残る程度に混ぜる。

衣に濃淡をつける
衣に濃淡をつける

5完成

一カ所、箸でくるくると粉をよけるようにして、薄い部分を露出させる。こうすると、一つのボウルで衣の濃淡を使い分けることができる。
使っていくうちに衣が分離して粉が沈殿したり、衣の濃度が均一になってきたら、2の卵水と冷水を1:3の割合で加えて薄め、4~5を繰り返す。

完成
まず薄いところにつけてから、濃いところにくぐらせて、衣を密着させるのが基本。衣が食材をカバーしてしっかり蒸された状態になり、甘味が引き出せる。長時間揚げるときは衣を厚めに。逆に、しそなど短時間で揚げる食材は、衣の薄いところにだけくぐらせる。
濃いところの衣のつき具合
薄いところの衣のつき具合

玉ねぎの天ぷらのつくり方

「玉ねぎのおしゃべりを聞きましょう」と元吉さん。
玉ねぎは水分や糖分を多く含むので、油の中で賑やかに音を発します。その音の変化も揚げ加減の目安。だから初心者でも比較的揚げやすいと言えす。輪切りではなく、くし形に切るのは、厚みをあえて不均一にして食感に変化をつけるため。野菜類は、すべて先に下ごしらえを済ませ、一気に揚げましょう。

材料材料 (つくりやすい分量)

玉ねぎ1個
揚げ油適宜
適宜
薄力粉適宜

1下ごしらえ

上下の端を切り落とす。写真のように、根元ぎりぎりを切ると、芯が残るのでバラバラにならない。くし形に6等分する。楊枝などを刺して、玉ねぎの隙間に衣が入らないように留める。薄力粉を全体に薄くまとわせる。刷毛(シリコン刷毛でもOK)を使うと、手早く薄くつけられる。

下ごしらえ
下ごしらえ
下ごしらえ

2衣をつける

衣の薄いところに玉ねぎをくぐらせたら、次は濃いところにくぐらせ、2層にしてしっかり衣を密着させる。

衣をつける

3揚げる

180℃に熱した揚げ油に入れる。衣が散らないよう、そっと入れる。衣が固まってきたらひっくり返して、反対側も固める。天かすは小まめに取り除こう。時々、天地を返しながら揚げていく。泡が大きくなりパチパチと高い音がしたら、火が通ってきた合図。

揚げる
揚げる

4引き上げ具合を見極める

さらに火を入れるうちに泡が収まってきて、ピチピチと爆ぜる音が低くなってくる。引き上げ時だ。表面に香ばしい焦げ目ができているはずだ。ここまでの所要時間は4~5分。

引き上げ具合を見極める
引き上げ具合を見極める

5カットし、盛りつける

引き上げたらすぐに楊枝を抜き、半分に切る。切ると蒸気が抜けて、衣のカリカリ感をキープできる。

カットし、盛りつける
カットし、盛りつける
揚げることで引き出される独特の甘さが魅力。外側の大きな面はシャキシャキ、芯はとろり。食感の違いも面白い。玉ねぎは、アツアツよりも温度が落ち着いてからのほうが、味がよくわかる。多少冷めてもおいしいところが家庭向きです。

教える人

「天ぷら 元吉」店主 元吉和仁

「天ぷら 元吉」主人 元吉和仁

1975年生まれ。学生時代に天ぷら職人を志し調理師学校へ。大阪の老舗料亭、都内の天ぷら屋などを経て31歳で独立。理にかなった自由な発想で独自の野菜天ぷらを追究する。

店内
2006年11月開店。生ビール800円。日本酒は飛露喜、五凛、磯自慢ほか10種類程度で一合980円~。店で使う関根胡麻油はオンラインでも販売している。おまかせコース1万9,000円~。

店舗情報店舗情報

天ぷら 元吉
  • 【住所】東京都港区南青山3-2-4 セントラルNo 6 B-A 地下1階
  • 【電話番号】03-3401-0722
  • 【営業時間】18:00〜と21:00〜の2部制
  • 【定休日】日曜 祝日の月曜
  • 【アクセス】東京メトロ「外苑前駅」1a出口より3分

文:上島寿子 写真:湯浅亨

※この記事の内容はdancyu2017年8月号に掲載したものです。

上島 寿子

上島 寿子 (文筆家)

東京生まれで、銀座の泰明小学校出身。実家がビフテキ屋だったため、幼少期から食い意地は人一倍。洋酒メーカー、週刊誌の記者を経て、フリーに。dancyuをはじめ雑誌を中心に執筆しています。