衣と油を駆使して、野菜のポテンシャルを引き出す調理法天ぷら。今回は東京・外苑前にある天ぷら屋「元吉」の店主・元吉和仁さんに、野菜天ぷらをおいしく揚げる秘密を習いました。
天ぷらは「野菜をおいしく食べるための優れた調理法です」。こう話すのは東京・外苑前の「天ぷら元吉」の主人、元吉和仁さん。天ぷらにすれば、野菜の甘味や香りが引き出されて香ばしさも加わる。薬味に使うような地味野菜でも、堂々主役を張れるのだ。
天ぷらづくりで最も重要なのは衣。「これができれば、成功したも同然です」と元吉さんは断言する。ポイントは薄い衣の上に濃い衣を重ね、その野菜が一番引き立つ厚さにしてやること。やや難しく感じるかもしれないが、大丈夫。野菜は魚介に比べておいしさのストライクゾーンが広いので、初心者でも失敗しにくい。
玉ねぎ、しそ、なすなど身近な野菜も、元吉さんの手法で揚げれば、香りや食感が劇的に変化する。野菜に惚れ直すこと請け合いだ。
おいしさの七割は「衣づくり」で決まります!
衣で包んで揚げることで食材を“蒸す”のが天ぷら。火の通り方が変わってくるため、衣はとても重要です。薄い衣、濃い衣の順に二重につけてしっかり密着させるのがコツ。下着、上着の順に野菜に服を着せてやるような感覚です。洋服と同じで、その野菜に合う濃度の衣を着せれば、持ち味が引き立ちます。ボウルの中で衣の濃度に差ができるよう、たっぷりつくります。
★ 卵水 | |
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・ 冷水 | 360ml |
・ 全卵 | 1個 |
・ 卵黄 | 1個分 |
冷水 | 600ml |
薄力粉 | 340g |
薄力粉 | 80~100g(調整用) |
薄力粉は冷蔵庫でよく冷やしておく。使う直前に取り出し、すべてザルでふるっておく。
冷水(氷水でもよい)に全卵と卵黄を割り入れて泡立て器でよく混ぜ、卵水をつくる。
2 から200mlを取り分け、冷水600mlを注ぎ、薄力粉340gを5 ~6 回に分けて加え、その都度粉っぽさがなくなるまで混ぜる。グルテンが出ないよう、泡立て器を寝かせて8の字を描くようにさっくりと混ぜる。
表面に、調整用の薄力粉20g程度を薄く広げ、表面を叩くように混ぜ、上のほうは濃く、下は薄くなるようにする。ここでは粉っぽさが残る程度に混ぜる。
一カ所、箸でくるくると粉をよけるようにして、薄い部分を露出させる。こうすると、一つのボウルで衣の濃淡を使い分けることができる。
使っていくうちに衣が分離して粉が沈殿したり、衣の濃度が均一になってきたら、2の卵水と冷水を1:3の割合で加えて薄め、4~5を繰り返す。
「玉ねぎのおしゃべりを聞きましょう」と元吉さん。
玉ねぎは水分や糖分を多く含むので、油の中で賑やかに音を発します。その音の変化も揚げ加減の目安。だから初心者でも比較的揚げやすいと言えす。輪切りではなく、くし形に切るのは、厚みをあえて不均一にして食感に変化をつけるため。野菜類は、すべて先に下ごしらえを済ませ、一気に揚げましょう。
玉ねぎ | 1個 |
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揚げ油 | 適宜 |
衣 | 適宜 |
薄力粉 | 適宜 |
上下の端を切り落とす。写真のように、根元ぎりぎりを切ると、芯が残るのでバラバラにならない。くし形に6等分する。楊枝などを刺して、玉ねぎの隙間に衣が入らないように留める。薄力粉を全体に薄くまとわせる。刷毛(シリコン刷毛でもOK)を使うと、手早く薄くつけられる。
衣の薄いところに玉ねぎをくぐらせたら、次は濃いところにくぐらせ、2層にしてしっかり衣を密着させる。
180℃に熱した揚げ油に入れる。衣が散らないよう、そっと入れる。衣が固まってきたらひっくり返して、反対側も固める。天かすは小まめに取り除こう。時々、天地を返しながら揚げていく。泡が大きくなりパチパチと高い音がしたら、火が通ってきた合図。
さらに火を入れるうちに泡が収まってきて、ピチピチと爆ぜる音が低くなってくる。引き上げ時だ。表面に香ばしい焦げ目ができているはずだ。ここまでの所要時間は4~5分。
引き上げたらすぐに楊枝を抜き、半分に切る。切ると蒸気が抜けて、衣のカリカリ感をキープできる。
1975年生まれ。学生時代に天ぷら職人を志し調理師学校へ。大阪の老舗料亭、都内の天ぷら屋などを経て31歳で独立。理にかなった自由な発想で独自の野菜天ぷらを追究する。
文:上島寿子 写真:湯浅亨
※この記事の内容はdancyu2017年8月号に掲載したものです。