2018年2月号で好評を得た「料理上手になるレシピ」特集の第二弾です。今回は“新しい、和のごはん”がテーマ。“新しい、和のごはん”って、何?和食?と思う人がいると思いますが、単なる和食ではありません。和食をベースにした料理であり、家庭で日常につくるごはんでもあります。読んで楽しい、つくって美味しい一冊です!
目移りするほど豊富で、わかりやすくて、ワクワクが詰まっている――。それが、東京・渋谷にある予約の取れない居酒屋「高太郎」の品書きだ。店主の林高太郎さん直筆の、少し右下がりの文字を目で追うだけで、日本酒が欲しくてたまらなくなる。
高太郎さんが毎日したためる60品近いメニューは、誰でも理解できるよう構成されている。たとえば“蓮根と生ハムのかき揚げ”のように、使用する食材と調理法が明快だ。ここに高太郎さんの料理の「方程式」が隠れている。
高太郎さんが料理の世界に飛び込んだのは大学を卒業してから。遅いデビューだ。「料理を知るには食材を知ることが先決だと思い、旬の食材の名前を片っ端からノートに書き込みました」。円グラフを春夏秋冬に分け、それぞれの季節に野菜と魚介を記す。
次に、調理法。「和え物、煮物、焼き物、揚げ物など、基本の調理法で大枠をつくり、さらに細分化します。焼き物だったら塩焼き、白焼き、柚庵焼き。グラタンもありかな、というふうに」。無数の食材と調理法をパズルのように組み合わせ、地道に料理をつくり続けた。
しかし、これだけでは何かが足りない。そう思った高太郎さんが編み出したのが、「ずらす」というテクニック。“蓮根のかき揚げ”だけならいかにも和食だが、ここに「生ハム」を足した瞬間、冒頭のワクワクが生まれる。決して特殊な技ではない。でも、王道から一歩ずらすだけで、料理がこんなにも新しいものになるなんて!
僕の店のメニューには、香味野菜を使った和え物がよく登場します。冬から早春にかけては春菊やせり、春を迎えたらクレソン、夏にはみょうがなど、野菜の「香り」が季節を感じさせてくれます。こうした野菜に合わせる食材が、釜あげしらす。しらす干しよりも柔らかく、しっとりしているので、香味野菜とのなじみもよく、塩や醤油を効かせなくてもしらすの持つ塩分と旨味で、味がぴたりと決まります。
芹 | 1株 |
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釡あげしらす | 大さじ3 |
胡麻油 | 小さじ1 |
白煎り胡麻 | 小さじ1 |
芹は葉を摘み、茎は長さ2㎝に切ってボウルに入れる。釜あげしらす、胡麻油を入れる。
全体に油が回るようにふんわり和える。味をみて足りなければ塩(分量外)を加えて調える。
器に盛り、胡麻をふる。
ここに、胡麻油を加えるのが僕流の「ずらし」のテクニック。料理の見た目は「和」なのに、口に入れた瞬間、胡麻油の香りが広がってナムルのようなおいしさも楽しめます。ただし、つくりたいのは「和」の和え物なので、香味野菜の香りが引き立つよう、胡麻油の量はほんの少しに留めます。
「芹としらす 香味和え」は、高太郎さんの方程式「旬の食材×調理法+ずらし」で組み立てられている。まずはレシピ通りにつくってみてほしい。
誌面ではこのほかにも、3品レシピを習っている。そこから、日々のごはんづくりの大きなヒントが、きっと見つかるはず。ぜひご覧ください!
文:佐々木香織 写真:湯浅亨