東京都大田区の中心地であり、羽田空港にも近い街。蒲田に住む、dancyu食いしん坊倶楽部メンバーのみょうがさんのソウルフードは照り照りの「鳥もつ煮」。おいしさの秘密は、作品に深みを与える“名脇役”にあるそうです。

奥さんの実家も近い東京都大田区蒲田に、結婚を機に住み始めて16年目になる食いしん坊倶楽部会員のみょうがさん。ヤンチャな人も時折見かけるが、「住めば都」で、庶民的な街の雰囲気が今ではすっかりお気に入りだという。そして蒲田を象徴する食といえば、羽付き餃子やとんかつなどを思い浮かべる人も多いだろうが、みょうがさんにとっての“わが街ソウルフード”は、ぶっちぎりで「鳥久(とりきゅう)」の「もつ煮」だという。鳥久は1928年創業、まもなく100年目を迎えるという老舗の弁当(鳥久本店)・惣菜専門店(鳥久惣菜からたつ)だ。
「鳥久のお惣菜が秀逸です。から揚げ、肉団子、もつ煮、焼鳥が私の豪華4トップ。いずれもお酒のおつまみにも、ご飯のお供にもばっちり合います。私のイチ押しが、もつ煮なんです!」(みょうがさん)
もつ煮といえば、牛や豚がポピュラーだが、鳥久のもつ煮には当然のごとく鳥が使われている。
「鳥久のもつ煮は、ひと口めを頬張ると、濃いめの甘辛ダレの甘さがこめかみの奥にキュッとくる。その瞬間、『ああ、うまい!』ってなります。レバーと甘辛ダレだけでは味が単調かと思いきや、鳥皮も入っていて、とろっとした脂身が味変してくれるんです。なおかつ、その脂身のおかげでドライ系のビールがとにかく進むんですよ。例えるなら、名脇役として知られる『キャラメルコーン』のピーナッツと同じぐらい、この鳥皮の脂身がいい仕事をしてくれる。キリッとした辛口の白ワインや、『開運』など辛口の日本酒もオススメですよ!」と、みょうがさんの熱弁は続く。

もつ煮の美味しさの秘密について鳥久を直撃すると、「新鮮なもつを使い、当日準備した分が売り切れれば販売終了としています。もつに限らず、大切にしているのはあらゆる食材の鮮度です」という。味付けについては、「鳥皮まで使うことで皮の脂が加わって、タレがよりおいしくなると思います」とのことで、みょうがさんの証言と完全に一致!
みょうがさんは、もつ煮の人気ぶりをこう話す。
「平日は5分も並べば買えるんです。ところが週末になると、もつ煮を注文する人が多くなるのか、出遅れると買えません。並ぶのが昼ごろになってしまうと、売り切れを意識してヒヤヒヤすることになります。マツコ・デラックスさんがテレビでここの特製弁当がお気に入りだと話されていましたが、私のソウルフードは、もつ煮一択です!」
もつ煮の価格は、100g300円(税込)とリーズナブル。同店一番人気とも言われる「特製弁当」は焼鳥・チキンカツ・から揚げ・つくね・かまぼこ・じゃがいも煮が入って900円(税込)というから、こちらも内容を考えればお求めやすい。

さて、鳥もつ煮といえば、地元発祥のご当地グルメとして、自治体としてもPRしているのが山梨県甲府市だ。同市観光課によると「食糧難だった1950年ごろ、同市内にある蕎麦店が『鳥のもつが捨てられているのがもったいない。何とか安く、おいしく食べられないか』と試行錯誤の末に考案。鳥もつ煮というと長時間煮込むものが多いが、『甲府鳥もつ煮』は少量のタレを強火で、砂肝、はつ(心臓)、レバー、きんかん(生まれる前の卵)を一気に煮詰める。甘辛味の照り煮で、甘じょっぱさが特徴です」とのこと。甲府市内には鳥もつ煮を出す店がいくつもあるというから、本場も訪ねてみたいものだ。
さてさて、みょうがさんの奥さんとお子さんももつ煮が好きだ。夫がビールやワインで堪能する隣で、2人はもつ煮をおかずにご飯をもりもり食べるという。もつ煮は、家族全員に愛される、蒲田の庶民派ソウルフードである。
文:荒川 龍 写真:みょうがさん