その町の住人が長く通う店こそ、愛される名店に違いない。dancyu2025年夏号では、京都と東京の二拠点生活をする、料理家ウー・ウェンさんに京都を案内してもらいました。
京都市役所の近くにある「洋食おがた」。2015年のオープン以来、地元の常連をはじめ国内外から訪れるゲストを魅了する京都きっての洋食の名店だ。
店主の緒方博行さんは、全国屈指の生産者や目利きからの信頼が厚く、彼らが育んだ食材のエピソードを洋食に落とし込む。「緒方シェフは食のプロが憧れる料理人です。味づくりも人柄も、チームワークもすべてが好き!」とウー・ウェンさん。いつも座る場所は、カウンター席の中央。「緒方さんとスタッフの皆さんの阿吽の呼吸が心地よく、食材談議も楽しくって」。
品書きには、本日のお薦めが80種近く並び「毎回違うメニューを楽しみますね」とのこと。焼津「サスエ前田魚店」から届く活アジを用いたフライは「断面のレア感が見事なんです。だけど余熱がすぐに入るから、すぐに食べないと!」と頬張り、満面の笑み。そんなウーさんが愛してやまない「ふくどめ小牧場」のサドルバック豚は、ポークジンジャーでいただく。「分厚いでしょう、なのに脂が軽やか。付け合わせのマッシュポテトは、パリの名グランメゾンを超える感動です」。
実は緒方さんはフレンチ出身。だから、食材の火入れやソース作りはもちろん、付け合わせに至るまで、フランス料理の技をベースにした洋食が真骨頂。しかも、ベシャメルソースの優しさに包まれるグラタンに至るまで、どの品も澄んだ味わいで、食後感はじつに清々しい。ウーさんの締めは必ずミニカレーらしい。「油も小麦粉も使っていなくて、胃が整う感じ。心身の栄養補給、完了です!」
北京生まれ。1990年に来日。料理研究家としてクッキングサロンを主宰しながら、シンプルで体にやさしい中国家庭料理のレシピを雑誌や書籍、テレビなどで幅広く発信している。家庭では二人の子供をもつ母。最新刊は『最小限の材料でおいしく作る9つのこつ』(大和書房)。
文:船井香緒里 写真:エレファント・タカ