
食いしん坊倶楽部のLINEオープンチャット「山手線!本気の昼飯マップ」で、メンバーから寄せられたランチメニューを徹底解剖してお届け。第10回は、有楽町『日本料理 むとう』の「鯛茶漬膳」です。
いつも注文するのは「鯛茶漬膳」で、天ぷらの盛り合わせを追加注文します。天ぷらは季節によって変わりますが、先日はキス、イカ、明日葉、里芋でした。鯛茶漬けは、最初はそのまま刺身としてわさびをちょいのせして食べて、ご飯をおかわりして2杯目で茶漬けにします。ここに季節の小鉢二種類、香の物、甘味が付く完璧なフォーメーションの御膳です。店に流れている銀座らしいキリッとした緊張感と割烹の清々しい空気感が相まって、ここで過ごす時間は贅沢だなあと毎回感動します。
1953年創業の「日本料理 むとう」は、銀座六丁目・数寄屋通りに店を構える老舗割烹。日本家屋の一軒家をそのまま店舗にしていて、高級クラブや古くから続く飲食店が立ち並ぶこの通りのなかでも一際風情を感じさせる店構えだ。
食いしん坊倶楽部の推薦者、ネルソンさんのお気に入りの「鯛茶漬膳」2,500円は、創業以来の人気メニュー。毎日活け締めの鯛を仕入れているので、抜群の美味しさ。まずは刺身とごはんで漬け丼のように食せば、鯛のブリンとした弾けるような食感や濃い旨味を愉しめる。途中から玄米茶を注ぐと、鯛の上品な脂が溶け出していい出汁となり、優雅な味わいの茶漬けへと様変わり。この玄米茶がまた、急須から注いだ瞬間にふわっと茶葉の香りが広がって食欲をそそるのだ。
「鯛茶漬膳」は、1953年の開店当初から続く昼の人気メニュー。料理長の東山仙秋さんが3代目女将から「これだけは内容を変えないでほしい」と唯一言われた、この店の中でも特に大切されている一品だ。
鯛茶漬けといえば胡麻だれタイプが多いが、この店は醤油だれがベース。初代料理長が九州出身だったことに由来して、たっぷりの炒り胡麻と醤油ダレが特徴の博多名物・胡麻鯖丼を彷彿とさせる仕立てになっているのだ。
醤油だれには、濃口醤油とたまり醤油をブレンドし、さらに鰹・昆布の出汁やみりん、お酢を加えている。風味が良くてコクもあり、それでいて後味はあっさりとしているのが特徴だ。
「食いしん坊倶楽部の方が当店に通ってくださっていて、しかもランチにおすすめのお店として推薦していただいたなんて、とても嬉しいです」
と、料理長の東山仙秋さん。黙々と調理する姿には威厳があり、声を掛ければ気さくに話してくださる、なんとも魅力的なお人柄だ。
「銀座の老舗というと敷居が高いイメージが強く、昔からの常連のお客様が多いことも事実です。しかし昼は初めての方でも入りやすいと思うので、ぜひ気軽にお越しください」
文:吉田彩乃 写真:工藤睦子