
食いしん坊倶楽部のLINEチャットグループ「山手線!本気の昼飯マップ」で、メンバーから寄せられたメニューを徹底解剖してお届け。第4回は、高田馬場『プネウマカレー』の「チキンカレー」です。
伊吹島産のアンチョビを使用した、唯一無二の旨さをもつスパイスチキンカレーです。店主自らスパイスを挽き手間暇かけてつくっているにもかかわらず、600円~という手頃な価格に驚かされます。
食いしん坊にとって、食事に求める条件が「美味しい」であることは間違いない。時として、美味しいことに加え、手頃さと速さを必要とするときもある。例えば、仕事がある日のランチがそれだ。適当な店で手を打ちたくはない。でも、とにかくパパッと旨いものを食べたい。そんな食いしん坊のワガママに応えてくれるのが、JR「高田馬場駅」から徒歩3分の場所に店を構える『プネウマカレー』だ。
店内に入ったら、まずは券売機で食券を購入。「チキンカレー」のご飯の量は少なめ(200g)600円、普通(280g)630円、中盛(340g)680円、大盛(400g)730円と細かく分かれていて親切。それにしても普通で630円とは! まるで学食のような良心的な価格に感動。
カウンターで店主の長谷薫さんに食券を渡し椅子に座るやいなや、なんとこのタイミングで注文したカレーが提供された。入店から1分? 3分? 速い。速すぎる。なぜこんなに速く出てくるのか。
長谷さんの動きを観察してみると、なんとカウンターから券売機をじっと見つめ、客がどのボタンを押すか確認しているのだ。食券を購入した客がお釣りをサイフにしまう頃には器に白米を盛り始め、カウンターに食券を差し出される瞬間には白米にカレーをかけている。まるでカレーを1秒でも速く出すことに命をかけているかのようだ。
光の速さで提供されたカレーをまずは一口。おや! 今まで食べてきたスパイスカレーでは出会ったことのない独特のコクがある。スパイスの香りの奥底からなんともいえない存在感を放つこの風味の正体は、なんと伊吹島産のアンチョビ! トマトの酸味のキレもあって、アンチョビのコクとのバランスが素晴らしい。もはや『プネウマカレー』という新しいジャンルを確立していると言っても過言ではない。
別売りのトッピングも欠かせない。カウンターの客を見渡せば、ほぼ全員がゆでたまご60円と、ひよこ豆のピクルス70円を頼んでいる。ひよこ豆のピクルスは、穀物酢のパキッとした酸味に、ほんのりとディルシードが香る。これだけでも酒のつまみになりそうだ。長谷さんによれば「福神漬けやらっきょうのイメージでつくった」という。
なんといっても、『プネウマカレー』のアイデンティティを形成しているのはアンチョビペーストだ。長谷さんは、日本一のイリコの産地として有名な伊吹島産のアンチョビを生産者から直接仕入れている。
「イワシを塩漬けにして一年以上寝かせたものを送ってもらっています。店に届く頃には溶けて魚の形もなくなってペースト状になっていて、炒めた玉ねぎと絡めてカレーにコクを加えます」
さらに、スパイスは全部で10種類使用。カレーに必須のターメリックを筆頭にクミンやグリーンカルダモン、シナモンなどホールとパウダーをたくみに使い分ける。ここまで手が込んでいて600円前後で提供するとは! 長谷さんのその心意気に感謝したい。
「2017年に『プネウマカレー』を始める前に、オフィス勤務をしていた時代があったんです。会社員って、だいたいは昼の休憩が60分じゃないですか。ご飯を食べて、コーヒーを飲んで、しかもタバコも吸いたいとなると、時間が足りないんですよね。そんな経験があるから、いかに速く提供するかを大切にしているんです。価格も、毎日食べられるカレーにしたいからできる限りおさえています」(長谷さん)
文:吉田彩乃 写真:伊藤菜々子