日本独自の味わいを追求したジャパニーズウイスキー"角瓶"が愛され続ける理由

日本独自の味わいを追求したジャパニーズウイスキー
"角瓶"が愛され続ける理由

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1937年に誕生して約90年。日本人に合う味わいを追求し、愛され続ける角瓶は、酒のプロフェッショナルからの信頼も厚い。店の代名詞であるハイボールを角瓶でつくり続ける「銀座ロックフィッシュ」の間口一就さんが語る。

氷を入れずに冷えた角瓶でつくる。その名は「銀座ハイボール」

間口さん

サントリーウイスキー角瓶をソーダで割るハイボールは、世代を超えて愛され続けているおいしい飲み方だ。2009年にサントリーが巻き起こした角ハイブームは、1990年代から低迷していたウイスキー市場復活の起爆剤となったが、その頃お酒を飲める年齢に達した人も、現在では35歳。角瓶ハイボールを通じてウイスキーのおいしさを知った世代といえるだろう。

実は、このブームが起こる前から、角瓶ハイボールで人気を集めていた一軒のバーがある。2002年に銀座にオープンした「ロックフィッシュ」という店だ。店主の間口一就さんがつくるハイボールは、氷なし。冷凍庫で冷やした角瓶を、やはり冷凍庫で冷やしたグラスに注ぎ、そこに炭酸を1本注いで、レモンの皮を搾って香りを飛ばしたら完成する、見た目にもシンプルなハイボールだ。

銀座ハイボール

冷たくてドライで、角瓶の甘さや香りもしっかり留める濃いめのハイボールはたちまち評判となった。名付けて「銀座ハイボール」。1日の注文数が200杯を超えるようになるのに、それほど時間はかからなかった。そんな間口さんが角瓶を知ったのは、大阪でバーテンダーをしていた若き日々のことだ。

「あるお客様から角瓶がうまいと教わり、仕事終わりに当時のチーフに頼んでハイボールを2杯だけつくらせてもらいました。外で飲むときも、角瓶があれば必ず注文して、そうするうちにすっかりハマったんです。1990年ごろの話です。当時はバーボンウイスキーがブームだったし、シングルモルトもあったのですが、僕はとにかくブレンデッドウイスキーの角瓶が好きになった。ソーダで割ったときにふわりと香り、味わいもスッとよく伸びて、全体のバランスがよく、とてもうまい。そう、好きになった理由は、角瓶がおいしいからです。角瓶とはそれ以来の付き合いですから、僕にとっての角瓶は、商売道具というよりパートナーですね」

間口さん

間口さんは角瓶の現代における伝道師のような人。角瓶ハイボールを飲みながら食べる数々のおつまみやフードを考案してきたことでも有名だ。オイルサーディンやウインナーなどの缶詰だって、おいしいつまみに変化させてしまう。想像してみてください。まだ外は明るいうちから(この店の開店は午後3時!)コンビーフサンドとかホットドッグを齧りながら角瓶ハイボールをキューッと一杯やる、その旨さを。

最近では、ピザも出すし、あおさ海苔ビーフンなどの変化球的なメニューも開発。気付いたらフードメニューが90品目になっていたと笑う。

「20代とか30代の若いお客様は、ネットで情報を調べてからお見えになる方が多いのですが、お酒を飲むより、お食事処がわりに来る人もいますよ」

その気持ち、「ロックフィッシュ」のファンなら誰でもわかるはず。カウンターは昔ながらのスタンディングバーだが、テーブル席もあるのだ。ゆっくり座って飲むときには、角瓶ハイボールに合わせるつまみを、片っ端から頼むのも楽しいかもしれない。

食事
店の看板メニューの一つ「オイルサーディンの山椒焼き」(右)。京都の缶詰メーカー「竹中缶詰」のオイルサーディンの油を切り、醤油、酒をふり、山椒の実の醤油漬けを盛り軽く温める。トーストサンドイッチの種類も豊富だが、一番人気は「コーンビーフときゅうり」(左)。

日本初のウイスキー蒸溜所で生まれた角瓶は、2024年で87歳になった

角瓶はとてもポピュラーなウイスキーであり、お酒を少しでも嗜む人なら誰でも知っているブランドだ。街でもよく見かけるし、スーパーで買って家飲みの日の良きパートナーとして親しんでいる人も多いことだろう。しかしこの、独特の亀甲文様のボトルを改めてじっくり眺めると、昨今の新製品にはない、重み、渋み、そして比類ない美しさを感じる人も少なくないのではないか。

実際、このウイスキーには長い歴史がある。サントリーの山崎蒸溜所で日本のウイスキーの最初の一滴が蒸溜されたのは1924(大正13)年。蒸溜所はその前年に建設が始まっており、今年で101歳になった。そして、樽貯蔵を経て熟成した酒が「白札」という国産最初のウイスキー(現在もあるサントリーウイスキーホワイト)として発売されたのが、1929(昭和4)年のことである。サントリーは、ウイスキーの本場であるスコットランド産のスコッチに負けないものをつくろうと、まさに社運をかけて投資をし、1937(昭和12)年、満を持して角瓶を世に送り出した。

このウイスキーは、高級官僚、海軍の将校、銀行や商社の社長や重役など、海外の食文化とスコッチの味を知る人々に、国産の最高級品として受け入れられた。

戦後のサントリーは、低価格でウイスキーの入門には最適だった「トリス」でウイスキーブームをつくるのだが、戦前から高級酒であった角瓶は、戦後も、それに続く高度成長期も、バブル景気を経た1990年代においても、ハイクオリティのブレンデッドウイスキーとして親しまれてきた。

100年近い時の流れを経験した、懐の深い日本のウイスキー。それが、角瓶だ。たとえば、今の、30代のそのまた親の世代にとって、角瓶は若き日に憧れた一本であり、今なお、親しみ深い長年の友のような存在である。このことは、角瓶が日本の洋酒文化が醸成される数十年の間、その本流にあったことを物語っているだろう。

ボトルホルダー
サントリーのシンボル、向獅子のボトルホルダー。力強く縁起がいいとされ、かつてはサントリーの社章にも向獅子が使われていた。
藤原ヒロユキさんのイラスト
「ロックフィッシュ」の顔なじみでもあるイラストレーター、藤原ヒロユキさんによる角瓶。藤原さんはビール愛好家として有名だが、「ロックフィッシュ」にもふらりと飲みに来るという。

多彩な原酒づくりとブレンドの技術。変わらぬ旨さを紡ぎ続ける角瓶

角瓶はモルトウイスキーとグレーンウイスキーを混ぜたブレンデッドウイスキー。シングルモルトのブランドとして有名な山崎蒸溜所や白州蒸溜所で生まれた数々のモルト原酒にグレーンウイスキーをブレンドして出来上がる。どんな原酒をどんな割合でブレンドしたときに伝統の角瓶になるか。徹底的なテイスティングは毎年繰り返され、味は守られる。

原酒の味と香りは、樽の種類と熟成年数によって異なる。あの樽、この樽、5年か、10年か。貯蔵庫で眠る膨大な樽の中から選び抜いた原酒の味と香りを確かめ、混ぜ合わせる。 発売から87年もの間愛され続けた角瓶は、実は毎年、小さく生まれ変わっているのだ。

「ロックフィッシュ」の間口さんはこんなことを教えてくれた。

「1950年代の角瓶を持っていて、最近、開けたんです。飲んでみると、甘さや香りが、今の角瓶につながっているのがわかりました。何千回も何万回もブレンドした中で磨かれた芯のようなものが、しっかり残っている。改めて感動しましたね」

あらゆるタイプの原酒をつくり、その個性を見極め、選定する。ブレンドは魔法だ。その魔法による産物が、亀甲文様をモチーフにした、手に馴染むボトルの中で輝いている。

今日もよくやったなと自分に言ってやりたいとき、このボトルに手をのばせば、ひと世代も、ふた世代も前の人たちと同じ、充足感のある、温かい気持ちになれるだろう。

角瓶は、頑張る人に寄り添う上質な酒。とてもありがたいウイスキーなのだ。

サントリー角瓶
山崎蒸溜所・白州蒸溜所・知多蒸溜所のバーボン樽原酒をバランス良く配合し、甘やかな香りと厚みのあるコク、ドライな風味が特長のジャパニーズウイスキー。ウイスキーにおいて日本国内売上金額No.1**を誇る。80年を迎える伝統の味を保持するため、ブレンダーが日々品質を見直している。希望小売価格700ml、1910円

*原料は麦芽、穀類、日本国内で採水された水のみ、糖化、発酵、蒸留は日本国内の蒸留所で行うなど、日本洋酒酒造組合の定める表示基準に合致した製品を「ジャパニーズウイスキー」と称する。
**インテージSRI+ ウイスキー市場(ハイボール除く) 2023年1月‐2023年12月 累計販売金額 7業態計(SM・CVS・HC・DRUG・酒量販店・一般酒販店・業務用酒販店)。

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この記事で紹介したお店

銀座ロックフィッシュ(ROCK FISH)
【住所】東京都中央区銀座7‐3‐13 ニューギンザビル1号館7F
【電話番号】03‐5537‐6900
【営業時間】平日15:00~22:00、土日祝14:00~17:30
【定休日】不定休

文:大竹 聡 写真:山田 薫

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