青森県階上町の青森県栽培漁業振興協会でミネフジツボの完全養殖技術が開発された。甲殻類だから、その味は蟹のようで、海老のようで、雲丹のような……比類無き美味の種苗生産技術は、サケやイカの不漁に悩む青森県の漁業者の希望の星になるかもしれない!
ミネフジツボの幼生は、エビ・カニ同様に海中を浮遊して育ち、成長すると岩などにへばりつき、甲羅の代わりに硬い貝殻状のすみかを作り、その中で成長する。当然、ホタテの養殖設備や船体にも付着し、邪魔者であり、取ってもすぐにへばりつく厄介者だ。しかし、『食べたら猛烈にうまい!』、青森では古くから食べられてきた美味だ。
酒蒸しや塩茹でにしたフジツボの嘴状の口をひっぱり中身を出す。オレンジ色の部分は雲丹と海老の内子と蟹味噌を足して3で割ったような味。濃厚でありながら、後味はすっきりしている。白い部分は蟹と貝と海老を足して3で割って、少し蟹の味が強い印象。磯の香も心地よく、見た目とのギャップが大きい究極の酒肴と言っても過言ではない。蔓脚と呼ばれる蔓を動かす肢体はエイリアン的で気味が悪く、値段が高い割に食べる部分が少ないので評価は分かれるが、食味は非常に美味!アミノ酸類の宝庫だ。フジツボや亀の手は精力剤的な認知も強い大人の珍味。中身を引っ張り出して食し、底の汁をすするのは、野生の感覚が呼び戻されるかの如き興奮を覚える。
漁師の養殖実用化はこれからだが、養殖技術はほぼ確立した。大きな貝殻の数カ所にマスキングテープを貼り、シリコンを塗布し、テープを剥がした場所にミネフジツボが付着する。貝殻に他の生物が付着しても、シリコン塗装してあるから、取り去るのは容易。ミネフジツボは餌を与える必要がない。つまり、時間は掛かるが生産コストは低く、かつ、雌雄同体のフジツボから種苗を育成するから、持続可能性も極めて高い。この凄い高級食材が安定生産されれば、漁業だけでなく、観光資源としても有望だ。
2013年に僅かな予算で始まったミネフジツボの養殖技術研究。10年を費やし、実用化となるが、厄介者が安定的な人気者になるには3〜4年はかかる。海水がなくとも冷蔵で1週間は生きているミネフジツボは輸出にもむいている。気候変動に起因する漁業不振は深刻だが、ミネフジツボが期待の星であるのは間違いない。
文:(株)食文化 萩原章史