「インネパ食堂」で飲む!
マニアックな白板メニューが人気のインネパ店で、禁断のパキスタン料理飲み!──京成高砂「プルナディープ」前編

マニアックな白板メニューが人気のインネパ店で、禁断のパキスタン料理飲み!──京成高砂「プルナディープ」前編

インネパ店でありながら、なんとパキスタン料理が衝撃的においしい店が京成沿線にあった!――街によくあるインド・ネパール料理店=インネパ食堂を巡って、スパイシーな料理をつまみに酒を飲み歩く連載企画。第21回目は、マニアもうなるディープメニューを揃える人気店で、“禁断”の飲みを体験してきました。

近年、巷でよく見られるインド・ネパール料理店(※)やネパール料理専門店。そういったお店を酒場として楽しむ“インネパ飲み”が、酒好きの間でじわじわと注目を集めています。この連載ではインネパ飲みを実際に体験しながら、その魅力をお伝えしていきます。

※ネパール人が経営するインド料理店。通称「インネパ店」。街によくあるカジュアルな雰囲気のインド料理店の多くはネパール人が手掛けていて、それを示すようにネパール国旗が掲げられていたり、“モモ”などのネパール料理がメニューにあったりします。

案内役は、北は北海道・稚内から南は沖縄・宮古島まで、全国各地のインネパ食堂を食べ歩いた著書『日本のインド・ネパール料理店』が好評の、アジアハンター小林真樹さん。飲みのお供は、「東京ダルバートMAP」を編纂するカレー偏愛ライターの田嶋と、編集Mが務めます。

今回のお店は、熱狂的なファンを抱える京成高砂「プルナディープ」。人気の理由は、店内のホワイトボードに書かれた特製メニューにありました。

絶品パキスタン料理を、なぜ提供できるのか?

都心から電車に揺られること数十分、寅さんの故郷・柴又のひとつ手前の「京成高砂駅」。駅に下りて5分ほど歩いた住宅地に、その店はありました。

外観
駅から歩いて5分ほどの場所にある「プルナディープ」。2020年に開店。
小林
ここ「プルナディープ」はカレーマニアをはじめ固定ファンが多く、同時に地元のお客さんもしっかり付いていて、数あるインネパ店の中でも着実な集客を誇るお店です
田嶋
SNSでも、この店を訪れた方々の投稿を非常によく見かけます。高砂にあるだけに、今や同店に行くことが「高砂に出稽古」というキラーワードにもなっていて(笑)

果たして、人気の秘密は何なのでしょう?それを探るべく、この日は店主におまかせで、料理をいくつか見繕ってもらいました。

まずテーブルに登場したのは、ネパール料理で定番のアチャール(漬物)の2品。ただ、この店のアチャールは、ひと味違いました。

料理
野菜がしゃっきり!フレッシュアチャール。
料理
発酵由来の酸味と旨味!ムラコアチャール。

人参、大根、きゅうりなどを使った“フレッシュアチャール”は、発酵をさせていない漬物で、カレー味のサラダという趣。しゃきっとした野菜の歯ごたえとレモンの酸味が、まさに鮮烈なフレッシュさでした。一方、大根を使った“ムラコアチャール”はしっかり発酵させてあり、歯がなくても噛めそうなソフトな食感と、癖になる酸味・旨味がとても印象的。のっけから絶妙なセンスを感じさせます。もちろん、どちらも酒によく合う!

小林
同店が人気を集める理由の一つが、店内に掲げられたホワイトボードのメニューです。メニューブックに掲載された定番料理もあるのですが、そちらはナンカレーが中心。一方、ボードメニューには日替わり料理をはじめ、マニアックな料理やセットが並びます。しかもネパール料理だけでなく、パキスタン料理もあったりする。この現地感あふれるホワイトボードのメニューが、他のインネパ店と差別化する要素となっています
ホワイトボード
マニアックな料理も並ぶホワイトボードのメニュー。

そんな中、さっそくディープなパキスタン料理が運ばれてきました。ナスとマトン肉を豪快に使った“ベイガンゴーシュト”です。マトンはゴツい骨付きで、存在感がハンパない!グレービーはニンニクとスパイスがストレートに効き、凝縮された特濃の旨味が口内にあふれます。またナスがスポンジのように汁を吸っていて、その食感は肉の脂身のよう。そんな背徳感すら感じさせるカレーを、ギーの風味がしっかり香るパラタ(※)とともにいただきます。

※生地を薄く伸ばした後、折りたたんで層状にしたパン。

料理
これが、ベイガンゴーシュトだ!
編集M
こ、これは……ちょっと衝撃的なうまさです!かなり脂はこってりですが、この誘惑には抗えません(笑)。それにしてもネパール人のお店で、なぜこれほどにも本格的なパキスタン料理を出せるのでしょう?

レモンサワーの酒の濃さは下町レベル!

小林
実はネパール人店主・アルジュンさんは、新宿をはじめ都内・近郊に店舗を構える「ナワブ」という日本のパキスタン料理店で約8年働いた経験があり、それでパキスタン料理の作り方もよく知っているんです。アルジュンさん自身も、調理技術を備えています
店主のアルジュンさん
店主のアルジュンさん。「ナワブ」で約8年働いたのち、独立。
アルジュンさん
スペシャルメニューをホワイトボードに手書きするスタイルも、「ナワブ」時代からのものなんです
田嶋
要はインネパならぬ、“ネパール&パキスタン”スタイルですね(※)

※ちなみに「プルナディープ」には、インド料理メニューも多数揃えています。

小林
しかもパキスタン料理店のほとんどがムスリム(イスラム教徒)の経営で、宗教上アルコールを置かない店が多いですが、アルジュンさんはムスリムではないので、この店では酒が飲める。すなわち本格パキスタン料理をつまみに酒を飲めるという点でも、貴重な存在ですね
田嶋
こう言ってはナンですが、我々日本人の感覚からすると、こってりしたパキスタン料理は、酒とよく合うんですよね……

そんな話に合わせるようにして到着したのが、“レモンサワー”です。レモンサワー自体は多くのインネパ店にありますが、この店で供されるのは注目に値する一杯でした。

レモンサワー
編集M
おおお、この焼酎の量の濃さ!いわゆる“硬い”ってやつですね。いかにも下町らしいレモンサワーで最高です。さすが高砂!
田嶋
しかも甘さの一切ないドライタイプ!インネパ店のレモンサワーは甘くなりがちなだけに、これもまた嬉しいなー。ますます料理に合いますね

パンチの効いたパキスタン料理とうまい酒で、いよいよ興が乗ってきた一同。後編では、店の名物である“スペシャルターリー”をアテに、まだまだ飲みまくります。

案内人

小林真樹さん

インド・ネパールの食器や調理器具を輸入販売する有限会社アジアハンター代表。インド亜大陸の食に関する執筆活動も手掛け、著書に『日本のインド・ネパール料理店』(阿佐ヶ谷書院)、『食べ歩くインド』(旅行人)などがある。http://www.asiahunter.com/

店舗情報店舗情報

プルナディープ
  • 【住所】東京都葛飾区高砂3‐17‐1
  • 【電話番号】03‐5876‐7818
  • 【営業時間】11:00~14:30(L.O.) 17:00~22:00(L.O.)
  • 【定休日】月曜
  • 【アクセス】京成本線「京成高砂駅」より徒歩5分

文:田嶋章博 写真:田嶋章博、編集部

田嶋 章博

田嶋 章博 (ライター、編集者)

1976年、神奈川県生まれ。ファッション誌の編集を経て独立。ライフワークとしてカレーの食べ歩きと時々自作をしながら、WEBメディア、雑誌でカレー関連記事を執筆。 都内および近郊のダルバートを食べ歩いた「東京ダルバートMAP」を展開中。