行きつけのカレー店が多い松尾貴史さんですが、大阪・北新地で飲み歩くときは、必ずここで締めるという店があるといいます。松尾さんが感動し、虜になったその味とは――。
大阪の北新地で飲む時には、ゴールから逆算して飲み屋を決めることが多い。そして、そのゴールとは、カレーうどんが名物のひとつになっているとある店なのだ。
初めてここで深夜にカレーうどんを食べた時の感動は忘れられない。カレーのスパイシーさが絶妙なだけではなく、出汁の旨さが出色で、できるならば出汁だけでも持ち帰りたいほどの素晴らしさなのだ。
そこに、青ネギや薄揚げの刻みが馴染んでいる。味が染みていることを関西弁で「しゅんでる」と言うけれど、その塩梅がありがたい。薄揚げがカレー出汁を纏って啜り込まれた時の幸福感。ここのカレーうどんを食べてからは、「刻み薄揚げの入っていないカレーうどんなんて」という心境になってしまっている。うどんの麺は太さもコシも丁度良く、どんぶりの中で全員野球が行われている感じなのだ。
さらにありがたいのは、夕刻から何と明け方近くまで営業していることだ。早めの時間には、近隣の飲食店の関係者やホステスさんたちが腹ごしらえにする定番の店でもあるし、深夜には営業を終えたクラブなどからホステスさんらを伴って酔客が押し寄せる。
「押し寄せる」とは言い過ぎかもしれないが、例えば深夜2時頃に来たとしても数人の先客が入り口前の廊下で待っている、などということは日常的な光景だ。
もちろん、一般的な「時分時」も絶品おでんを「アテ」に飲んでいる人も多く、つまりは、いつも賑わっている。
ここで最後に美味いカレーうどんを手繰るという目論見がある事で、夕刻から常時うきうきできるのだ。
文・撮影:松尾貴史