料理とヱビスを愉しむ時間をテーマに、大阪はミナミとキタへ。伝統の味を伝えるお好み焼き店「美津の」と、国産黒毛和牛専門店「但馬 蔓萬」と異なる鉄板料理で、ライブ感あふれる食事を堪能しよう。
大阪へやって来た。たこ焼きに串カツ、てっちりにうどんすき。食い倒れの街で食べたいものは数あれど、やはりお好み焼きは外せない。
数多あるお好み焼き店の中から目指したのは、評判が高い上に、「絶品ヱビスの店」の看板を掲げる店である。「絶品ヱビスの店」とは、ひときわ、高品質なヱビスブランド樽生を提供しているお店のことで、クリーミーな泡、クリアなビール、コールドな温度を実現したヱビスが味わえる。ここは、大阪らしい美味と極上のヱビスを愉しみたい。
向かったのは、道頓堀からすぐ、ミナミの入り口とも称される千日前商店街。数々の飲食店やアミューズメント施設が軒を連ねる賑やかなアーケードだ。
数々の店の中でも、1945年創業という長い歴史があり、高い人気を誇っているのがお好み焼き「美津の」(みづの)である。
店を切り盛りする森川宜資子(よしこ)さんは、3代目となる。映画館の支配人を務めていた父方の祖父が、戦後の焼け野原を見て「今は、食べることが何より大事な時代だ」と、退職金の代わりに貰った土地で鉄板1枚から立ち上がり、お好み焼き店を始めたのだった。
「洋食が贅沢な時代で、今では当たり前にあるソースの味は庶民の憧れだったと聞きます。それをいつでも食べられるように、祖父母が編み出したのが“洋食焼”でした」
それゆえ、“洋食焼”は、「美津の」のルーツともいえる一品。
しかしながら、メニューを開くと魅力的なお好み焼きがいくつも並ぶ。
……さて、どれにしよう。
「うちはお好み焼き専門店。一品料理はさておき、お客様おふたりで3枚ほどのお好み焼きを召し上がる方が多いですよ」
それならばと、店名を掲げる“美津の焼”、山芋100%の生地の“山芋焼”、そして伝統の“洋食焼”をお願いした。
お好み焼きはすべて、手慣れた店の方が焼いてくれる。
目の前で焼かれる生地を見て驚いた。「粉もの」というけれど、粉はほとんどなく、キャベツがふんだんに入り、魚介や豚バラといった具もしっかり盛り込まれる。
森川さんは言う。
「うちでは粉を最小限に抑え、素材の旨味で食べていただくようにしています。特に“美津の焼”は、どこを切っても具に当たりますよ」
“美津の焼”の具は、豚バラ、海老、イカ、ミンチ(豚挽き肉)、貝柱、牡蠣(冬季以外はタコ)。食感はふんわり軽く、ひと口目にジューシーな豚バラが、ふた口目にはクリーミーで濃厚な旨味の牡蠣を噛みしめた。森川さんの言う通り、軽やかなソースやマヨネーズ、香りのいい青海苔と一緒に素材の旨味が押し寄せる。
すかさず、ヱビスビールで喉を潤す。クリーミーな泡、程よい苦味、深いコクが一体になるではないか。
粗挽き黒胡椒の刺激、底に敷いたミンチのコクが、ヱビスビールの次のひと口を誘い、もう1杯を呼んでしまう。
続いて、山芋焼。
「通常は、海老、イカ、貝柱、豚バラ、豚ロース、ミンチの中からお好きな2種の具を選んでいただくのですが、今は、6種すべての具を盛り込む“夢の全部盛り”もできますよ!コロナ禍でみんなの気持ちがふさがっているときに、少しでも明るくなってもらいたくて」と森川さん。しかも、値段は据え置き。さらに海老は車海老を使っていると言うのだから、拝みたくなってしまう。
「美津の」でヱビスビールを提供するようになったのは20年ほど前のこと。
森川さんは、お好み焼きとヱビスビールの相性をこう語る。
「ヱビスは、上品でしっかりしたコクのあるビールでしょう。うちのお好み焼きは、鰹節にしても海苔にしても、素材を選び抜いています。魚介の旨味に加えて、黒胡椒を効かせたり、柚子で香り高く仕上げたりと、ソースの味だけでなく、素材の旨味を引き出した“大人のお好み焼き”です。大人のお好み焼きには、“大人のビール”がよく合いますよ」
食感だけではなく、食べ心地も軽いお好み焼き。3種類それぞれに異なるおいしさとヱビスを堪能して、「美津の」が多くのお客に支持されている理由が少しだけわかった気がした。
次は、鉄板焼きを目指してキタへ向かう。
北浜にある「但馬屋 蔓萬」(たじまや つるまん)は、瀟洒(しょうしゃ)でレトロな雰囲気もたたえた大阪証券取引所ビルの地階にある。ここは、かつて大阪証券ビル市場館があった場所で、旧ビルのシンボルであったドームの外観を北浜の顔として継承していると言う。
国産黒毛和牛専門店の「但馬屋 蔓萬」では、鉄板焼きのほか、しゃぶしゃぶ、すき焼き、焼肉といった4つのスタイルで料理を提供している。ここでは、店一押しの目の前の鉄板で焼き上げる“ヘレステーキ”をいただきたい。
“ヘレステーキ”の素材となる牛肉は、但馬牛のほか、尾崎牛や宮崎牛など、A5等級・黒毛和牛でその時々の質のいいものを仕入れている。
本日は、近江牛のヘレ150g。適度なサシ、きめの細かさ、見た目でもわかる柔らかさ。
そして、ジュージューと焼き上げる音、立ち上る香り。いやが上にも期待は高まっていく。
焼き手の和田勇一さんは、料理人歴42年。厚さ3cmのピカピカの鉄板の上で、流れるような手つきで肉を焼き上げる。
「フレンチやイタリアンも経験してきましたが、鉄板焼きはダイレクトにお客様の反応がわかるのが魅力ですね。召し上がった瞬間の表情で、『おいしい!』が伝わってきます」
焼きたてのひと切れを口に運ぶ。
「柔らかいでしょ?ヘレは運動量が少ない部位で、黒毛和牛のヘレは特に柔らかいんですよ」と和田シェフ。
舌触りは極なめらか。赤身の濃厚な甘味も感じられ、噛みしめると旨味がしみ出してくる。
クリーミーな泡をたたえたヱビスビールをごくり。ほのかな苦味、豊かなコクが一体になって、幸福感が満ちてくる。
「ビジネスシーンでいらっしゃるお客様も多く、瓶ビールは大手メーカー各社を揃えています。でも生ビールはヱビスのみ。なんといってもビールの王様ですから。私もビールが好きで、よく飲みますがコクが違う。ほのかな苦味は、脂ののった肉の旨味が増すように思います。あと泡がきれいでしょ。『注ぎ方上手やね』とお客様に褒められますよ(笑)」
和田さんによると、国産牛のランプ肉を揚げた“国産牛ビフカツ”や、ノイリッシュソースを添えた“ロブスター”ともよく合うと言う。
「牛カツは、粗めの生パン粉をつけてサクサクに揚げています。デミグラスソースは、和牛の牛すじを3時間以上炊いてつくってます。ご飯にもヱビスにも合う味ですよ(笑)。ロブスターはオーストラリア産の身がきれいなものを選んでいます。ベルモットを使ったクリームソースのコクがいいでしょ」
食べて、飲んでいる間の会話やライブ感も魅力の鉄板焼き。料理とヱビスが生む愉しい時間とともに、鉄板越しに生まれるコミュニケーションも味わった。
美津の
【住所】大阪府大阪市中央区道頓堀1‐4‐15
【電話番号】06‐6212‐6360
【営業時間】11:00~21:00(L.O.)
【定休日】不定休
【アクセス】地下鉄「なんば駅」「日本橋駅」より5分
但馬屋 蔓萬
【住所】大阪府大阪市中央区北浜1‐8‐16 大阪証券取引所ビルB1F
【電話番号】06‐6232‐0429
【営業時間】11:00~14:00(L.O.) 17:00~22:00(L.O.)祝前日は夜のみ
【定休日】日曜、祝日
【アクセス】地下鉄・私鉄「北浜駅」より1分
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文:長谷川ミヤ 写真:山出高士