店内自家製麺のうどんメニューが人気の丸亀製麺から、食べずにはいられない新商品が発売された。その名も「トマたまカレーうどん」だ。カレー好きも唸らせる本格的な辛味と、トマトの酸味、溶き卵のまろやかさも加えて仕上げた一品は、なんと株式会社TOKIOの松岡昌宏さんと共同開発したもの。その入魂の一杯を、スパイス料理家として人気の印度カリー子さんが試食した。はたして、その感想はいかに?
東京大学大学院で香辛料の研究をし、自らスパイス料理を提案する印度カリー子さん。味の分析力にも定評のある彼女が、まずは一口「トマたまカレーうどん」を食べて発した言葉は「めっちゃおいしい!」。人はみな、感動する味に出合うと、真っ先においしいという単語が口をつくものなのだ。
「旨味が何重にも感じられる、このカレーだしは旨味の爆弾ですね!とはいえカレーだしだけの印象になるんじゃなくて、このもちもちしたうどんのおいしさが生きてるんですよ。素晴らしいな。トマトの味もとても立ってる。トマト好きな人が大満足する味」と食べる手が止まらず、大絶賛。
ただし、普通のカレーうどんを想像して食べると想定外の味に驚くかもしれない。いわゆるだしの味をベースにしたカレーうどんとは一線を画した味なのだ。「今は、本場インドのようなスパイスを炒めてつくるスパイスカレーが流行って人気を得ていますよね。『トマたまカレーうどん』もその範疇に入る味。新しいカレーうどんの時代が来た!って感じます」
カレーうどん新時代を予感した印度カリー子さん。「トマたまカレーうどん」の開発を担当した浦郷裕介さんから開発秘話を聞いた。
「何より味がおいしい、そして新しいカレーうどんですね。カレーっていろいろな種類がありますけれど『うどんに抜群にあうカレー』だなと感じました。ただ『カレー味にしよう』じゃなくて、素材とスパイスの両方を熟知している人じゃないとできないカレーだと思いました」とカリー子さん。普段からスパイス料理をつくり、食べている人ならではの指摘だ。
「さすがの分析ですね。『うどんで日本を元気にプロジェクト』で共創型パートナーとなってくださっている株式会社TOKIOの松岡昌宏さんがメニュー開発の初日から自ら厨房に入って味づくりに参加してくれました。TV番組でカレーづくりを経験した松岡さんならではの提案があったのです。でもそこでしっかり共有したのは『丸亀製麺らしさ』です。あくまでも、うどんが主役。いくらおいしいカレーだしができても、うどんと合わなければダメですし、逆にうどんが勝ちすぎてもいけません。いかに両者がしっかり成り立つ味にするのかを考えるのは難しかったです」と浦郷さん。松岡さんのアイデアと、浦郷さん率いる開発スタッフのうどんへの情熱が、この新しいカレーうどんを生み出したのだ。
「多分、丸亀製麺のうどんにスパイスキーマカレーみたいなのを合わせても、うどんに味負けしちゃうでしょうね。『トマたまカレーうどん』は下地にごま油とニンニク、しょうがの風味があって味を支えているのが印象的。そこにトマトの酸味と旨味、クリームと溶き卵のまろやかさ……それらが深いコクになった、ここでしか味わえないうどんと調和するカレーだしになっていますね」。完食後、うどんとカレーのバランスについて深く思うところのあったカリー子さん。
「ニンニクとしょうがはペーストではなくそれぞれ刻んだもの、おろしたものを使っています。それをごま油で炒めて薬味の味をしっかり油に移すと香りの立ち方が違うんですね。最初の段階はまるで中華料理のようですが、この下地の味が松岡さんのアイデアでもあります。そこに丸亀製麺が店内で数時間おきに引くだしを入れることで途端に和の存在感が増し、さらにカイエンペッパーのキレのよい辛さやクリームや溶き卵を加えることで和洋中を折衷したオリジナルの味になりました」と浦郷さんが開発の裏話を教えてくれた。
「カレーに溶き卵というのも珍しさがありました」とカリー子さんが感想を述べると、「うどんをすくう時に、カレーだしにとろみがあるから麺にひっかかるだけでなく、溶き卵があることで絡みやすさも増しています。いろいろな方向の味をひとつにまとめているのもやっぱり卵ですね。環境やエサに配慮して育てられた鶏の卵で、釜玉うどんや親子丼に使用している、これも丸亀製麺の自慢の食材なんです」と浦郷さん。
その味の深さに納得のカリー子さん。トマたまカレーうどんにセットでついてくる「ひと口ごはん」、自らセレクトした「長なすの天ぷら」もすべてペロリと完食。「カレーというと、やっぱりどうしてもご飯と食べたくなる人の気持ちもフォローしているところがさすが」と満足そうだ。
実は、トマたまカレーには肉が入っていない。それについてもカリー子さんは「英断」ときっぱり。
「肉が入っている方がボリュームは出るし、一口目の味にインパクトがあると思います。けれど最後まで飽きずに食べられて、さらにはリピートしたくなる余韻を残すにはシンプルな素材づかいで大正解。肉を食べたい人はトッピングすればいいですし、夏野菜の天ぷらも絶対合う! それこそトッピングの具材を変えることでリピートしても飽きませんよね」とのこと。もっともである。
残暑厳しい9月に、食が細くなっている人でも「これなら」と口にして元気が出そうな「トマたまカレーうどん」について、スパイス専門家らしくカリー子さんは次のように評した。
「上質なカイエンペッパーを使うことで、辛いだけではなく、甘味や旨味も増幅されていますね。カイエンペッパーはニンニクやトマトとの相性がとてもいいし、トマトの皮を厚くしたような旨味もあるから、トマト風味をブーストさせる効果もある。素材の重ね方の目の付け所が素晴らしかったです。こうした味が『カレーうどん』として食べられることに日本のカレー文化の裾野がすごく広がっていると感じられてうれしかったです。私もまた食べにきます!」とリピートも約束してくれた。
株式会社トリドールホールディングス(丸亀製麺)
TEL:03‐4221‐8900
1996年生まれ。宮城県仙台市出身。スパイス料理研究家兼タレント。スパイス初心者のための専門店 香林館(株)代表取締役。「スパイスカレーをおうちでもっと手軽に」をモットーに、初心者のためのオリジナルスパイスセットの開発・販売をする他、レシピ本執筆、大手企業と商品開発・マーケティング、コンサルティングなど幅広く活動中。2021年3月東京大学大学院農学生命科学研究科修了。
文:柳澤美帆 写真:相澤正