農家酒屋「SakeBase」では今年度もオリジナル酒の醸造をめざし、自社での米作りを始めました。本格栽培2年目、新たなチャレンジが満載です!
自ら栽培した酒米・山田錦を使ったオリジナル酒を、今年3月にリリースしたSakeBase。昨年は米の収量がタンク1本の仕込みには足りず、麹米としてのみ使用されたのだが、今期はSakeBase栽培の米のみで1本仕込めるようにと心に決め、3月から稲作を始動している。
昨年使った種籾(たねもみ)は前年に無農薬で自家栽培したものだったが、今年は田んぼの面積を増やしたため、茨城県の種苗会社から無農薬の種籾を購入した。
新設したビニールハウスに最初に種蒔きしたのは3月7日。田植え計画に合わせ、時期をずらして育苗していく。
土気の田んぼでの田植えは、4月中旬からスタート。昨年に比べると、1か月以上早い始動だ。昨年の経験を経て、「出穂(しゅっすい)の時期に高温障害を起こさないように、また、台風の時期に稲が倒れることを防ぐために」時期を早めたのだという。また、千葉は温暖な気候なので、早めに田植えをしても問題がないことに気がついた。苗の間隔は、昨年は30cmだったところを、収量を上げるために20cmに。深さは「活着しそうだな、と感じる深さ」に植える。撮影は4月20日。カエルの大合唱が、賑やかに田植えを応援する。
SakeBaseの米栽培は、無農薬、無肥料の有機栽培だ。「純粋に、この土地のものだけでつくりたいから」と代表の宍戸涼太郎さんは言う。単に米を作るというだけでなく、農業と酒屋の営業を通して、この土気という土地の環境保全にも関わっていきたい。「山田錦の稲穂の上をホタルが飛ぶんですよ」。コロナ禍が明けたら、日本酒を飲みながらのホタル鑑賞会を開催する計画もある。
このあたりはもともと肥沃な土地で、しかも約30年間耕作放棄されていた。生き物も多いし、生き物の出す有機物も稲の生育にいい影響を与える。雑草も育ちにくい。また、「冬の間に藁を入れたり、糠を入れたり。むちゃくちゃメンテナンスしています」と宍戸さん。そんな条件が相まって、無農薬無肥料を実現している。「極力、環境に負荷をかけない方法を選ぶべきだと思っています。飯米だとコスト的に難しい分もあるけれど、僕たちが造るのはお酒だから、実現の道があると思いました」。
さらに今年はこの小山谷津地区の田んぼのほかに、車で15分ほど離れた同じ土気の越智(おち)地区でも田んぼを手がけることになった。こちらの農地は0.4haと小山の2倍ほどあり、昨年まで田んぼとしてバリバリ現役だった土地だ。土気のように開墾から始める必要はない。田んぼの持ち主が高齢で引退したところを、千葉市の農業委員会の職員さんが仲介してSakeBaseに紹介してくれたのだ。
そして、トラクター、田植え機、コンバイン、乾燥機まで低額で譲り受けることができた。新たな越智の田んぼと機械類を得たことで、昨年の450kgに対し、今年は2000kgの米を収穫予定だ。「自前米のみでタンク1本の仕込み」も俄然、真実味を帯びてきた。
開墾から始めたワイルドな小山の田んぼ、広々と恵まれた近代的な越智の田んぼ。今年のSakeBaseは対照的な2地区の田んぼで、山田錦を栽培する。「小山の田んぼは、越智の田んぼに比べて生産性が低いかもしれませんが、非効率な田んぼで環境を保全しながら価値あるものを生み出すという感覚を大切にしたいです。酒造りのカギを握る麹米には、大地のエネルギーを存分に感じられる小山地区の米を使いたい」と宍戸さん。
2つの田んぼで、今年はどんな米ができるのだろうか。
写真:山本尚明 文:里見美香(dancyu編集部)