イタリアのスパークリングワインの代名詞ともいえるのが、プロセッコだ。世界中に輸出され、日本でも親しみを感じる人も多いはず。しかし、その楽しみ方といえばまだまだ知られていないことも多い。日本ソムリエ協会理事・水口晃さんに、その魅力を教えてもらった。
フレッシュ感があって、溌剌とした酸味が魅力のプロセッコ。その故郷は、イタリア最大のワイン産地であるヴェネト州と、その東のフリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州の2州にまたがっている。「アルプスから連なるドロミテ山系とアドリア海に挟まれたこの地域は、冷たい山風と温かい海風が吹くために気温の寒暖差があります。ぶどうにとっては好条件で、果実の糖度が増し、酸味もしっかりある。プロセッコの原料であるグレーラ種の栽培も非常に盛んです」。現地で見た風景を思い浮かべながらソムリエの水口晃さんはそう教えてくれた。
プロセッコを選ぶときに、一つ味わいの目安になることがある。それは、甘辛度だ。プロセッコを含むスパークリングワインは糖分を添加して最終的な味わいを調整するのが常だが、その添加量による甘辛度がラベルに表示されるのである。甘辛度は7段階に分かれているが、主に出回っているのは2タイプ。1L当たりの残糖量が6~12gの「ブリュット」と、12~17gの「エクストラ・ドライ」である。水口さんによると、「日本では辛口のブリュットのほうが人気ですが、イタリアではそれよりもほのかに甘いエクストラ・ドライが主流」とか。飲み比べをして自分の好みを探ってみるのもいいだろう。
プロセッコ、じつはすごい人気モノである。水口さん曰く「数年前からはフランスのシャンパーニュを抜いてスパークリングワインで世界一の出荷量を誇っている」というから驚きだ。人気の理由はひとえに品質の確かさにある。どんなものでもプロセッコと名乗れるわけではない。イタリア北東部の決められた生産地内で、グレーラを85%以上使い、等々。細かな基準をクリアしたものだけが「プロセッコDOC」と名乗れるのだ。DOCとはイタリアにおけるワイン法の格付けで、原産地呼称保護制度のこと。簡単にいうと、偽造を防ぐための制度である。
そう聞くと少しかたい印象を抱いてしまうが、水口さんは「プロセッコはとても気軽な飲み物なんですよ」とほほえんだ。「イタリアでは食前酒を楽しむ習慣があるんですが、まずは一杯、という感覚で飲まれています。日本でいうビールのような感覚ですね」。アルコール分が一般的なワインよりもやや低めのおよそ11%ということもあり、飲み疲れしないのも特徴。食中酒としても親しまれている。
そんな気軽に飲みたいプロセッコDOCにはどのような銘柄があるのだろう。過日、dancyu食いしん坊倶楽部主催のオンラインイベントで水口さんが紹介してくれた14銘柄をここで紹介しよう。
水口さんの口からこんな飲み方も飛び出した。「プロセッコDOC特有のピュアな果実味はほかの素材をじゃましないので、カクテルのベースとしても使えます」。実際、どのようなカクテルがあるのか。イベントの会場となったプロセッコ専門バー「マルティノッティ」の長嶋宏明さんにいちおしのカクテルを2種つくってもらった。
一つ目はイタリアを代表する「スプリッツ」。ビターオレンジやハーブ入りのリキュール「アペロール」とプロセッコを同量で割ったカクテルだ。長嶋さん曰く「日の暮れないうちから老いも若きもが楽しむ」という光景がぴったりの、軽やかな飲み口がクセになる味わいだ。
二つ目は長嶋さんが考案した「スプーマ・クレーマ・ブルーナ」。エスプレッソとラズベリーシロップでプロセッコを割ったもので、「エスプレッソの苦みとプロセッコの酸味、そのバランスが絶妙な素晴らしいカクテル」と水口さんも絶賛した。
食前酒にも食中酒にも向き、カクテルにもなる。なんとも気軽に楽しめる、自由度の高さがプロセッコの醍醐味だろう。最後に、水口さんから朗報が。「この冬、イタリアでプロセッコDOCのロゼが流通し始めました。春には日本に上陸する予定です」。ますますプロセッコの楽しみが広がりそうだ。
去る12月12日、dancyu食いしん坊倶楽部主催のメンバー限定オンラインイベント「泡を気軽に!ソムリエと楽しく学ぶ“プロセッコ”」を実施。ソムリエ・水口晃さんによる講座のライブ配信に加え、イタリア現地との生中継、生産者の収録動画配信など盛りだくさんの内容でお送りしました。
イタリア大使館貿易促進部
公式サイト日本ソムリエ協会理事。麹町「ラ・スカーラ」(現在は閉店)でソムリエ取得後、1997年に渡伊。修業を重ねて帰国後、南青山の「フェリチタ」、日本橋の「アル・ポンテ」などを経て、04年に「ラ・ブラーチェ」開店に参加。09年から同店のオーナーとなる。02年には第4回イタリアンワイン技能コンテスト(イタリア貿易振興会主催)で優勝経験もある。
「マルティノッティ」店主。大手ホテルのバーテンダー、レストラン業界誌の編集職などを経て同店を設立。現在は飲食店のコンサルティングや出版物の制作をする傍ら、自らバーテンダーとして店に立ちプロセッコの普及に努める。
マルティノッティ プロセッコバー&カフェ
2020年5月にオープンした、昼から飲めるプロセッコ専門のバー。常時50種ほどの銘柄を揃え、4種はグラスでも提供し飲み比べも楽しめる。上で紹介した2種のカクテルも味わえる、まさにプロセッコ尽くしの一軒だ。ボトルの販売もしている。
【住所】東京都中央区日本橋横山町4‐9
【電話番号】050‐5800‐2802
【営業時間】12:00~食事は22:00(L.O.)、飲み物は22:30(L.O.)。水曜は15:00~。
【定休日】火曜
文:安井洋子 撮影:相澤 正