2020年11月号の第二特集は「大学いも祭り」です。ふかして、焼いて、揚げておいしいさつまいも。日本人にはとてもなじみ深い食材ですが、世界ではあまり見かけないそうです。そんな中、旅行作家の石田ゆうすけさんが台湾で出会ったさつまいもスイーツとは――。
食の雑誌『dancyu』の特集に沿って、世界各地を旅した僕の体験を綴る、という連載だ。今月の第一特集は「真っ当な酒場」。2話書いたが、どちらも無理やり「真っ当」にこじつけた感が否めない。
そもそも「真っ当な酒場」とはどんな酒場か。本誌を読むと、植野編集長をはじめ、多くの人が「居心地」というキーワードを使っている。僕にとって居心地が圧倒的によかった酒場となると、やはり1話目に書いたメキシコの"掃き溜め酒場"になる。どう考えても真っ当じゃない。ほかも似たり寄ったりで、怪しい酒場しか思いつかない。僕の嗜好が少し変だからか、貧乏旅行だったからか。うーん、両方か。
で、第二特集は「大学芋」。って、なんで今月はこんなに難題ばっかなんだ!ニッチすぎるだろ!
気を取り直して、まずはさつまいもについて語ってみよう。名前のとおり原産地は薩摩。なわけはなく、野菜の原産地として名高い中南米だ。ペルーではオレンジ色のさつまいもが国民食のセビチェ(魚介類のマリネ)に付け合わせとしてついてくる。ただ、中南米でさつまいもを見たのはそれぐらいだった。市場やスーパーではあまり見た記憶がない。あったかもしれないが、同じく原産であるじゃがいもは何種類も大量に並んでいたのに比べ、さつまいもの存在感は希薄だった。
中国、韓国、東南アジア、といったアジアの東側では、さつまいもをフライドポテトのように揚げたものが屋台なんかで売られていた。日本の焼き芋と同じようなものを売っている屋台もどこかの都市で見た記憶がある。
ただ、自転車世界一周7年半の旅でさつまいもを見かけたのはそれぐらいだ。世界全体の印象としては――つまり超大まかな印象としては――市場やスーパーでは日本ほどは売られていなかった(もちろん、僕が見なかっただけかもしれないし、最近は韓国なんかもさつまいも熱が高いと聞く。要するに、"世界全体の大まかな印象"ゆえ、例外は当然ある、という前提で読んでください。ふぅ)。
ちなみにさつまいもの生産量世界一は中国で、世界全体のなんと8割。ただ、そのほとんどが飼料用や加工用で、食用(そのままを調理して食べる分)は5%未満なんだとか。
対して日本のさつまいもは半分ぐらいが食用。種類もたくさんある。自分の印象だけで判断するのは早計だが、各国の市場やスーパーを思い返すと、日本人は世界の中でも特別さつまいも好きな国民だなという気はする。無論、優れた栽培技術ならびに品種改良があってこそだろう。
で、本題の大学芋だ。由来については諸説あるようで、『dancyu』 11月号に詳しいからそちらをご参照いただくとして、製法自体は中国から伝わった可能性も指摘されている。
中国語では「抜糸地瓜」。細かな製法の違いはあれど、素揚げして蜜をからめるという点は同じ。僕は中国を5ヶ月旅したが、「抜糸地瓜」を食べる機会はなかった。
海外で食べた唯一の例は台湾だ。台南市の路上にその露店が出ていた。日本の大学芋よりかなり大ぶりなカットで、胡麻はかかっていない。蜜は芋を揚げた油に砂糖を入れてつくられている。
1パック買って食べてみると、ガリッとした歯ごたえのあと、ほくほくした芋が口内にあふれた。蜜はたっぷりかかっていたが甘さは控えめで、さつまいもの甘味が前面に出てくる。ああ、いかにも台湾の大学芋だな、と思った。淡い味付けで、素材の旨さを引き立てている。
一度に食べるには多かったので残しておいた。翌日食べたら、少ししなっとしていたが、ほくほくした旨さは変わらず、2日目でも心が弾んだ。こんなに簡単なのにこの旨さ。なんて効率のいい料理だろう。世界中に広まっていいと思うんだけどなぁ。蜜をかけず揚げるだけでも十分旨いんだし。実際、アジアの東側には"フライドさつまいも"の屋台があったわけで。でも世界全体から見ればポピュラーな料理とはとても言えないんだよな。じゃがいもは世界中で揚げられているのに、なんでだろ?......あっ、酒の肴になりにくいから?
独り言です。
文・写真:石田ゆうすけ