「知る」とおいしいコラム集
今さら人に聞けない食の基礎知識|フレンチとイタリアン編

今さら人に聞けない食の基礎知識|フレンチとイタリアン編

一昔前まではフレンチやイタリアンというと特別な日に食べに行くレストランといったイメージでしたが、街中でもよく見かけるようになり、さらには家庭でもフレンチやイタリアンの調理法を使う人が多くなりました。今回はそんなフレンチとイタリアンに欠かせない「油」についてご説明します。

古代エジプトの時代から愛されるバター

フレンチに欠かせないバター。ソースに使ったり、パンと一緒に出したりするが、近年のヘルシー志向に押され、代わりにオリーブオイルを添える店も増えている。
バターは、人類が最も古くから利用している油脂食品とされている。一説では搾乳の習慣が始まったのが、紀元前7000年代。その3000年後の古代エジプトではすでにバターの製造法が知られていたという。
日本では奈良時代、中国から伝えられたバターに似た乳製品を食べていたとされるが、一般に広まったのは戦後のこと。当初は慣れない風味に顔をしかめる国民も多くいたという。西洋かぶれした人を「バタ臭い」と揶揄していたのも頷ける。
種類は大まかに、発酵・非発酵、有塩・食塩不使用に分けられる。フランスなどヨーロッパ圏では、発酵バターが一般的。主にバターへ乳酸菌を加え発酵させてつくられており、風味豊かだ。つくり手の個性がより感じられ、食べ比べも面白い。
バターは長時間空気に触れると、脂肪が酸化して劣化する。また、温度管理が悪いと溶けてしまい組織が壊れる。これも劣化の原因で、再度冷蔵しても元には戻らない。お薦めの保存法は、小分けしてラップに包み冷凍すること。使う分だけ冷蔵庫で解凍すれば、新鮮さを保てる。
ちなみにマーガリンは、1869年にバター不足を嘆いたナポレオン3世が、代用品の発明を懸賞募集したことがきっかけで生まれたもの。精製した油脂に粉乳や発酵乳、食塩などを加え、練り合わせてつくる。

オリーブオイルは鮮度が命

イタリアンに欠かせないオリーブオイル。植物油の仲間だが、胡麻油、菜種油などが種子から搾られて精製などの加工を経るのに対し、オリーブオイルは生の果実を搾っただけ。「オリーブの100%天然ジュース」と表現されるのはそのためである。
オリーブと人類の歴史がスタートしたのは、おそらくバターより少し後。諸説あるが6000~7000年前に地中海沿岸で栽培が始まったという。古代エジプト文明の遺跡では、オリーブオイルの壷を描いた壁画が発見されている。オリーブは乾燥した気候でも育つ丈夫な果樹のため、栽培地域が広がっていった。ちなみに、日本で消費が拡大したのはイタリア料理に注目が集まった1995年頃と、ごく最近の話だ。
基本の製造方法はいたってシンプル。果実を粉砕してペースト状にしたものを練り込み、圧搾機や遠心分離機などにかけて搾油する。不純物を取り除けば完成だ。なかでも一番搾りを使ったエクストラ(EX)バージンオリーブオイルは最高級品。オリーブのフレッシュで野性味のある風味と香りが特徴で、調理油というより調味料的に使われる。オレイン酸を豊富に含むので、動脈硬化、高コレステロール、便秘などの予防が期待できる。
一方、日本で「オリーブオイル」や「ピュアオリーブオイル」の名で売られているのは、精製したオリーブオイルとEXバージンオリーブオイルのブレンド。EXバージンオイルより風味は落ちるが、安価なためたっぷり使いたい調理に適している。
オリーブオイルは鮮度が命。劣化の原因は光、高温、空気による酸化だ。使用後は蓋をしっかり閉め、光の当たらない涼しい場所で保管すること。温度の上がるこんろ横、油が固まる冷蔵庫に置くのはNG。購入する際も店の保存状態に注目すべし。

イラスト:かざまりさ 文:森田彩子

協力/日本乳業協会 参考資料/野口洋介『牛乳・乳製品の知識』(幸書房)、大久保要夫『乳業マンが書いた乳製品の本』(三水社)、ハンナ・ヴェルテン著、堤 理華訳『ミルクの歴史』(原書房)、ファブリーツィア・ランツァ著、伊藤 綺訳『オリーブの歴史』(原書房)、イタリアフード協会監修『オリーブオイルの選び方 使い方』(池田書店)、長友姫世『オリーブオイル・ガイドブック』(新潮社)
※この記事の内容は2017年11月号に掲載したものです。