世界の○○~記憶に残る異国の一皿~
日本人が郷愁を感じる「台湾式弁当」|世界の昼めし①

日本人が郷愁を感じる「台湾式弁当」|世界の昼めし①

2020年7月号の第二特集は「昼めし」です。本誌では東京の昼めしを紹介しましたが、自転車ひとつで世界をまわった旅行作家の石田ゆうすけさんは、どのような昼めしを食べてきたのでしょうか――。

おかずの味がしみたお弁当

『dancyu』本誌7月号の第二特集は「昼めし」。ということで、世界で食べてきた昼めしのなかでも印象的なものを紹介したいのだが……昼めしといってもねぇ。世界を見渡すと、だいたいパターンが決まっている。ものすごく乱暴にいえば、パン食の地域はサンドイッチ(ハンバーガーの類も含む)で、米食の地域はぶっかけめしだ。

それ以外のバージョンは中国か。昼は麺の印象がある。地域ごとに異なる麺があるので、自転車で旅しながら毎日食べていると、さながら麺紀行のようになった。

アフリカの東部と南部は、トウモロコシ粉を練った蕎麦掻のようなものが主食だ。国や地域によって「ウガリ」「シマ」「サザ」と名称が変わる。ぼそぼそして納屋を思わせるにおいがあり、最初は抵抗があったが、慣れると病みつきになる。シチューなど様々なおかずと合わせて食べる。

インドの昼はカレーだ。ていうか夜もカレーだ。
うーん、そういう意味ではアフリカも同じか。夜もウガリを食べる。そもそも昼めしに特定の形がある国は少ないかもしれない。

変わり種はスペイン。1日に5回といわれる食事のなかで、メインは昼だ。フルコース形式でスープから始まり、米やパスタ、肉や魚のメイン、デザートと、昼なのにワインを飲みながら2時間ぐらいかけてのんびり食べる。一方、夜はバルで飲みながらタパス(小皿料理)を軽くつまむ程度。
僕は昼の明るいうちに走らなければならず、スペイン式の昼めしをじっくり味わうことはできなかったが、スーパーも午後から3時間ほど休むので驚いた。
最初は困ったが……いや、正直最後まで慣れることなく、ずっと困ったが(昼に3時間はやっぱり休みすぎだよ!)、他店としのぎを削ってスーパーまでもが24時間営業をする日本の競争原理とは真逆の精神「他店が休むからウチも休むべ」といった姿勢には大いに感心させられた。

もとい。
英語の「ランチ」には弁当という意味もある。弁当といえば台湾の便當(飯包とも)。日本統治時代に伝わった駅弁が原形らしいが、独自に発展し、すっかり台湾の文化になっている。
箱に温かいご飯を敷き詰め、その上に、煮豚、鶏のから揚げ、煮卵、高菜等々、おかずが数品のっている。どのおかずもだいたい甘辛醤油味で、八角もほのかに香る。その味と香りがご飯に染み、米の甘味が増幅される。
「なんで台湾の便當ってあんなに旨いんだろうね」
そんな会話が旅行者同士よく交わされる。
とりわけ池上という米どころのそれは「池上便當」というブランドと化していて、謎なぐらい旨い。かつて天皇に献上されたという池上産の米は甘味が秀でている。
弁当箱は木箱。昔の駅弁のスタイルを踏襲している。日本人の目にもノスタルジックだ。
逆輸入したらおもしろいんじゃないかな。同じクオリティなら、第二のアレになるかも……と思って調べてみたら、過去に何度か日本のデパートで台湾便當が出品されたらしい。
やり方と品質次第じゃないかなあ。空前のブームとなったアレ、タピオカドリンクも、最初に入ってきたときはパッとしなかったもんね。

文・写真:石田ゆうすけ

石田 ゆうすけ

石田 ゆうすけ (旅行作家&エッセイスト)

赤ちゃんパンダが2年に一度生まれている南紀白浜出身。羊肉とワインと鰯とあんみつと麺全般が好き。著書の自転車世界一周紀行『行かずに死ねるか!』(幻冬舎文庫)は国内外で25万部超え。ほかに世界の食べ物エッセイ『洗面器でヤギごはん』(幻冬舎文庫)など。