たっぷりのニラが入る香りよいニラソバに、見目麗しい餃子!東京都立浅草高校夜間部(正しくは、昼から夜の授業を担当する三部制B勤務)国語教師、神林桂一さんによる浅草エリアのランチ案内です。足を運んで、食べて選んだ自作ミニコミ「浅草ランチ・ベスト100」から「中華料理・韓国料理」部門より、愛すべき「町中華」を紹介します!
「中国料理」と「中華料理」の違いをご存知だろうか。テレビ番組『林先生も驚く初耳学!』(TBS)で林修先生は正解をお答えになったが、もちろん神林先生も知っている。厳密な使い分けではないが、一般的には「中国料理」とは本格的な中国生まれの料理のことで、「中華料理」とは日本でアレンジされ独自に発展した日本風中国料理のこと。中国人には「日式中華」と呼ばれているものだ。浅草では、今シリーズ「観光客の知らない浅草~浅草高校・国語教師の浅草ランチ・ベスト100~」でリストアップした「華春樓」や、有名な「龍圓」などは中国料理である。
これとは別に、最近「町中華」という言葉をよく耳にする。2014年に結成された『町中華探検隊』(ライターの北尾トロ氏・下関マグロ氏が発起人)が言い出しっぺだ。高齢化で絶滅が危惧される家族経営の大衆的な中華料理店のことをひと言で表す言葉で、僕も好んで使用させていただいている。正式な定義は「昭和から営業し、気楽に入れて1,000円以内で満腹になれる庶民的な中華店」ということだ(『町中華とはなんだ』角川文庫)。
『散歩の達人』(交通新聞社、2018年1月号)によると、浅草は「町中華発祥の街」であり、多種多彩な町中華の宝庫だという。そして、ラーメン発祥の店としても有名な「来々軒」(1910~1944年)を「町中華の元祖」と認定している。記事の中の絵地図には、僕のリスト「浅草ランチ・ベスト100」の中からも「十八番」「餃子の王さま」「あさひ」「太陽」「来集軒」が載っている。ただし、僕が「食堂」部門で取り上げる「芳野屋」や甘味処「山口家」、シューマイ「セキネ」まで町中華としている点には無理があるなぁ。
町中華のもうひとつの特徴は、暖簾分け(のれんわけ)の店が多いという点だ。「人形町大勝軒系」6店(1912年~)、「生駒軒のれん会」45軒(1917年~)、「代一元のれん会」14店(1950年~)などが有名だが、今回は西浅草の「十八番」を紹介したい。
戦後すぐ(1940年頃?)に浅草寿町で誕生した「十八番」(現在はその店舗は閉店)で働いていた創業者・栗原経雄氏の兄である栗原永治郎氏が暖簾分けで1963年に開店したのが、西浅草の「十八番」だ(以降「本店」と表記)。
ところがご主人は48歳の若さで世を去り、以後、3人の娘さんと、永治郎氏の妻・栗原さだ子さん(87歳)が今日まで店を守ってきた。今は、新御徒町店(小島町)、新日本橋店(神田美倉町)、神田店、八丁堀店、茅場町店(新川)、浅草橋店(柳橋)、両国店など下町を中心に展開している。
さらに親戚が製麺所を営み、麺も餃子の皮もそこでつくられているのだという。
ちなみに、荻窪「手もみラーメン 十八番」・椎名町「十八番」・野方「十八番(おはこ)」・板橋「18番」などは別系統である。
「十八番」一門の十八番(名物料理)といえば「ニラソバ」だ。創業時からのメニューで、ニラソバの元祖だと言われる。スープは醤油ベースで、豚バラをラードで炒め、ざく切りのニラひと束分を投入し、最後に胡麻油を加える。シンプルだがコク・旨味・香りが凝縮していて絶品だ。
「椎茸そば」も定番だという。後述のテレビ番組の影響で、トマト入りの「酸辣湯麵」(サンラータンメン)も有名だが、これは新しいメニューである。
餃子も焼き色が美しく、胡麻油が香ばしい。肉と野菜は1:3で野菜が多いが、具はしっとり馴染んでいる。挽き肉・調味料・ニンニク・ショウガ・ラードを白いペースト状になるまで約30分も練って野菜(キャベツ・ニラ・タマネギ)と合わせるのだという。
そして、忘れてはならない最強サイドメニューが「ぶためし」。元は賄い(まかない)で、タレに漬けた細切りチャーシューと辣油で炒めたネギがのっているものだ。
本店のドリンクの名物は「カッパばしわり」(かっぱ橋道具街が近いので)。焼酎の水割りにキュウリの細切りがタップリ入っているだけなのに、なぜかメロンの香り! ぜひお試しを。ただし口当たりがいいので飲みすぎ注意だ。
「十八番」本店は、テレビ番組『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレ)の「きたなシュラン」にて3つ星店として認定されたことでも有名だ。女将さんは「汚らしい店とは失礼だわ!」と不服そうだったが、「一見すると古く汚い店のようでも、びっくりするほどのおいしい料理を出す店・歴史ある外観や店内も味のうち」ということなんですよ。
収録日のゲストが嵐の松本潤さんだったため、その後6年間、聖地としてファンが集って忙しかったという。嵐おそるべし!
この名物コーナーは、番組後半には本家からクレームが入り「きたなトラン」(きたな美味いレストラン)と改名した。また、浅草にはあと2軒の3つ星店があったのだが、純レバ丼の「あづま」は火事で閉店、ホッピー通りの「正ちゃん」は改築して新しくなってしまった。「なのにトラン」のコーナーで、「喫茶店なのに大盛ちゃんぽんが美味しいレストラン」として紹介された「喫茶ぐり」も休業中だ。孤軍奮闘の「十八番」、がんばれ!
本店は家族経営に見えるが、実は親族は暖簾分けされた別の店におり、味を守る料理長はチーフと呼ばれている。現在の青山大介さんは五代目だ。女将のさだ子さんは、「昔は大変だったけれど、いろいろな人に支えられ、今はお店が一番好きで、仕事が楽しみです」とおっしゃる。いつまでもお元気でお店に立ってくださいね。
文:神林桂一 写真:大沼ショージ/萬田康文