愛とラーメンのバラード
「ラハメン ヤマン」にて。アフロが真面目にラーメンをつくって悪いか!

「ラハメン ヤマン」にて。アフロが真面目にラーメンをつくって悪いか!

東京は江古田にある「ラハメン ヤマン」はレゲエが流れるラーメン店。おまけに店主はアフロときているけれど、ラーメンをひと口食べれば、きっと感じてもらえるに違いない。愚直なまでにまっすぐな、彼のラーメン愛を――。

こう見えて、古風な男なんです。

「ラハメン ヤマン」のラーメンは、ラスタな店内からはおよそ想像もつかないような優等生的なヴィジュアルで供される。旨味調味料不使用の超真面目系。一見おとなしそうだけれど、ひとたびスープを啜れば、複雑に絡み合った素材の旨みが深い余韻となって何度も押し寄せる。

ジャマイカ国旗がはためく店頭。外観からもラスタな雰囲気が漂う。
L字のカウンターが配された店内。厨房に立つのが店主の町田好幸さん。

「ヤマン」では、丸鶏、鶏ガラ、モミジなどの鶏素材を軸に、ゲンコツ、背ガラ、豚足といった豚素材を加えてスープを仕込んでいる。大量の食材を寸胴鍋に押し込むようにして炊いているそう。

「ラーメンらしい味といったら、やっぱり鶏。鶏のだしって香りもいいでしょう?うちでは丸鶏だけでなく丸鶏のミンチも使って、肉の旨味もしっかり出すようにしています。でも、コクは豚のだしに叶わない。ゲンコツや背ガラを使っているのはそのためです」

店主の町田好幸さんは、そのゲンコツを律義にも自分で割っている。昔ながらのラーメン店のようだ。こう見えて(失礼!)、意外と古風なんだなぁ。
「今はカットされたゲンコツを仕入れる店も多いのに?」と尋ねると、「何日もグツグツ煮込むわけではないので、それだと中の髄が出きらないんですよ」と教えてくれた。
「だから、仕込みの時は毎回、金づちで骨を割っています。髄が出やすいように、斜め方向にね」

その作業風景を見せてもらうと、本当に骨の断面が斜めになっていた。金づちでただ叩いているだけ(に見える)なのに、おもしろいほどきれいに骨が割れていく。
「簡単そうに見えるけれど、きっと技がいるんですよね?」と尋ねると、町田さんはにやりと笑って顔を上げた。

鶏と豚を使って炊く動物スープ。ニンニクやショウガ、玉ネギ、ネギの青い部分など香味野菜も一緒に炊いている。終盤は野菜を潰してスープに香りを付けていく。

さらに、チャーシュー用の豚バラ肉と香味野菜を加えてコトコトコト。
今度はここに、別に取っていた昆布や干し椎茸、カタクチ煮干し、節類からとった和風だしを加えて、魚介の風味を重ねていく。
「油にも魚の香りを移したいので、動物系スープを濾す前に和風だしを合わせるのがポイントです」

手に持っているのが和風だし。一晩水出しした日高昆布と羅臼昆布、干し椎茸、カタクチ煮干しに、ソウダ節とサバ節の厚削り、混合削り節のだしを重ねてつくる。
濾す前の動物系スープに和風だしを加えることで、スープの一体感が増すという。

町田さん曰く「スープとは、旨味を凝縮させるもの」。
何かの味を突出させるのではなく、「何を使っているんだろう?」と思わせるような複雑かつバランスとれた味づくりを心掛けているそう。目指しているのは、帰る時に「また食べたい」と思ってもらえるような名残惜しい味。ひと口目のガツンとしたインパクトよりも、長く続く余韻を大切にしている。

シノワで濾したらスープの完成。濾す度、厨房に魚介だしの香りがフワリと漂う。
濾したばかりのスープをすぐには使わず、冷蔵庫でひと晩なじませてから使用する。

進まない働き方改革。それも並々ならぬラーメン愛ゆえ。

最近はラーメン店にも働き方改革の波が広がっていて、10年前に比べると朝早くから仕込みを開始する店がずい分減ってきた。それでもヤマンの仕込みは、オープンから17年近くが経った今も、朝7時過ぎにはスタートする。スープやチャーシューの仕込み、製麺作業と、朝からとにかく忙しい。店主の町田好幸さんが、これらの作業をすべてひとりで行っている。

「スープの仕込みがない日は時間が空くので、チャンスとばかりに朝から10km走っていますね」
ちょっと待って!週に一度の定休日は、ラーメンを食べるために数十kmも先の店に自転車を走らせていると言っていなかったっけ?
「そうそう。雨が降った日だけは電車でラーメンを食べに行っているので、(定休日の)木曜日に時々雨が降ってくれないと死んじゃう(笑)」
いや、お願いだから、休んでください!

昼だけでなく夜の営業も厨房に立ち続ける働き者。休みの日は食べ歩きに精を出す、根っからのラーメン好きだ。

チャーシューは厚めにスライスされたバラロール。ホロホロと崩れるやわらかなチャーシューは町田さんの好みではないため、適度な肉感を残すべく、スープで煮る時間は40~50分と最小限に留めている。動物スープで煮た後、火入れと味付けを兼ねて、さらに20分ほどタレで煮る。

火を止めたら、さらに30分タレに漬け込んで、中まで味をしっかりしみこませていく。この後、熱々に温めた別の漬けダレにひと晩漬ける。
デフォルトのラーメンにはバラロールが1枚。チャーシューをトッピングすると、肩ロースが2枚追加される(プラス275円)。
乾燥メンマは硬めに戻してコリコリ食感に仕立てる。味付けは濃い目。チャーシューの煮汁やスープも使い、丼に一体感を持たせている。

最愛の自家製麺は“泳がせる”のがモットー。

「らはめん ヤマン」は麺も自家製。でも、店の中のどこを見渡しても製麺機が見当たらない。
「この小さな店の一体どこに製麺機が?」と尋ねると、勝手口の階段下スペースに押し込めるように置かれた製麺機を見せてくれた。
え?ここで麺を打っているんですか?だって、立つのも、座るのもやっとというぐらいのスペースしかない。

「厨房の熱や湿気がこもってしまうので、勝手口のドアは開け放して作業しています。もう、ほぼ外ですよね。冬は寒いので辛いです」

そんな過酷な状況で毎朝製麺作業を行っているのかと思うと泣けてくる。

激セマの空間に置かれた製麺機。こんな場所で毎日麺を打っているなんてアンビリーバボー!

小さな店舗のため、作業をしていない時は物置と化している製麺スペース。そのため、製麺作業の度に毎日まわりの物を客席に出したり戻したりしているそう。
「ヤマンではこれを『引っ越し』と呼んでいます」
そう話す町田さんはいたってまじめ顔だ。ちなみに、引っ越しはアルバイトの仕事なのだとか。毎日ご苦労さまです……。

麺は中太のストレート麺。タピオカ粉を混ぜているので、コシがあってもちもちとしている。製麺後、1日以上熟成させてから使用する。

あらためて厨房を覗いてみると、今度はテボが見当たらない。「もしかして?」と思ったら予想が的中。ヤマンでは、平ざるを使い、昔ながらの手法で麺を茹でているのだ。
「だって、テボで茹でたら、麺が窮屈そうでしょう?」
なんたるラーメン愛!

鍋の中で気持ちよさそうに泳ぎ回る自家製麺。それを見つめる町田さんの眼差しは温かい。
テボを使うよりも高度な技術を要する平ざるでの湯切りもお手のもの。
麺線をきれいに整えて盛り付けるのも町田さんのこだわりだ。

平ざるで器用に麺を拾い上げ、湯を切る姿はまさに昔ながらのラーメン店。そう、こう見えて(再び失礼!)、町田さんは生粋のラーメン職人なのである。“見た目はアフロ”なんて、連呼してごめんなさい。

定番の“らはめん”770円。青味は、小松菜よりも歯切れのよい江戸菜を使っている。
スープに浮かべた大葉と揚げネギをアクセントに加えた“塩らは”825円。写真は“ちゃーしゅー”275円と“味玉”110円を増したもの。

――つづく。

店舗情報店舗情報

ラハメン ヤマン
  • 【住所】東京都練馬区栄町22‐1
  • 【電話番号】03‐3557‐0703
  • 【営業時間】11:30~16:00、19:00~22:00
  • 【定休日】木曜
  • 【アクセス】西武池袋線「江古田駅」より5分

文:松井さおり 写真:門馬央典

「ラハメン ヤマン」にて。アフロが真面目にラーメンをつくって悪いか!

松井 さおり(ライター・編集者)

大学時代にラーメンの食べ歩きにハマる。新卒で勤めた出版社でラーメン担当を任されて以来、ラーメン店取材がライフワークに。仕事とプライベートを合わせると、年間300杯近くを実食。電話帳の1/3はラーメン店主、体の半分くらいは多分ラーメンでできている。