北尾トロさんの青春18きっぷ旅。
五能線に乗って、太宰治の足跡を辿るのである。

五能線に乗って、太宰治の足跡を辿るのである。

夏に青春18きっぷで門司に帰省した北尾トロさんが、再び旅立ちます。目指すは、秋田と青森を結ぶ五能線。敬愛する太宰治が記した『津軽』のように、のんびり旅を想い描いたものの......。「北尾トロさんの18きっぷ旅in津軽」の始まりです。

合言葉は「腰に注意しようぜ」。

2019年夏、「青春18きっぷで実家メシを食べに行く」でスローな旅の楽しさに目覚めた僕は、帰りの車内で早くも、次回の行き先を決めてしまった。大好きな太宰治の故郷である津軽で、海の幸を堪能したいと。

実は、津軽には5年ほど前に雑誌の取材で行ったことがあるのだ。でも、そのときはトンボ帰りのスケジュール。新幹線で青森まで行って宿泊し、翌日、五所川原から津軽鉄道で太宰の生家「斜陽館」のある金谷へ。現地では2時間ほど過ごしただけだった。
何を食べたかさえ覚えていない慌ただしさだったのである。悔しかった。僕は太宰の旅行記『津軽』を愛読していて、太宰のようにのんびりと、五能線に乗って海沿いの風景を眺めてみたかったのだ。

18きっぷ
太宰治が生きていた頃に青春18きっぷがあれば使ってたかな。

もうひとつ、僕が気になっていたのは料理だ。1944年の旅行をまとめた『津軽』で、太宰は酒ばかり飲んでいて食事の記述がほとんどない。蟹や鮟鱇のフライを出される場面があっても、それについての描写はほとんどなく、お銚子をお代わりするばかりである。おそらく太宰は、わざと書かなかったのだ。日本海に面して走る五能線には漁師町が多いはずで、海の幸に恵まれていないわけがない。
とはいえ、津軽を旅するのに新幹線で往復するのは何か違う気がしてあきらめかけていたのだが、青春18きっぷで九州まで行けたなら、青森だって可能なはずだ。
『津軽』に書かれなかった郷土の味を、我が舌で確かめに行こうじゃないか。2019年12月、自分の中で太宰・海鮮・各駅旅がビシッとつながり、一気に気分が盛り上がったのだった。
さっそく検索して調べると、案の定、五能線沿線の鯵ヶ沢というところに名物料理があった。その名は「ヒラメの漬け丼」。漬けといえばマグロと思いがちなところ、白身の魚できやがった。しかも、僕が愛してやまないイカでも有名らしい……。

上野駅ホーム
いよいよ出発の朝。初日は五能線の起発駅のある秋田まで。約13時間の旅程なり。

出発は上野。構内で助六ずしを買い求め、12月22日7時16分発のJR宇都宮行き普通列車に乗り込む。旅の相棒は実家メシでも世話になった写真家の中川カンゴロー。還暦越えコンビの合言葉は「腰に注意しようぜ」である。

土呂駅
降車したい気持ちを抑えて、先へ進みます。

喜多方ラーメンを食べている余裕はない。

日曜日だからか、車内は混んでいて座れず、宇都宮まで立ちっぱなし。つぎの黒磯でようやく朝食を済ませることができた。
「秋田につくまで、乗り換えは何回だっけ?」
えーと、黒磯ー新白川、新白川ー郡山、郡山ー福島、さらに米沢と山形、新庄で乗り換えるから20時12分の秋田着まで約13時間かかって乗り換えは8回。とくに福島までが目まぐるしく、乗り換え時間は少ない。黒磯で21分あるが、昼を食べるとしたら乗り換え時間が24分間ある福島か。

宇都宮ホーム
上野を出発してもうすぐ2時間。最初の乗り換え駅の宇都宮に到着。
助六ずし
普段はおにぎりかサンドイッチだけど、今日はなんとなく助六ずしを手に取った。

驚いたのは、黒磯を過ぎても車内が空かないことである。黒磯以前から顔を見かけている乗客は、僕たち同様、18きっぷ組かもしれないが、スポーツ新聞を食い入るように見ている、旅行者っぽくないオヤジの比率が妙に高い。
その理由はすぐわかった。新白河にJRAの場外馬券売り場があるのだ。
「そうか、今日は有馬記念の日だよ」
ぞろぞろ降りていくオヤジたちの背中を見ながらカンゴローが笑う。伝統のG1レースで、オヤジたちの財布が分厚くなることを願おう。

車両
福島で20分ちょっとの休憩。次は渋い面構えの山形線に乗りますよ。

福島で、何を食べたらいいか迷った。立ち食いそばでは物足りないが、外に出て喜多方ラーメンを食べている余裕はない。構内の物産コーナーで味噌焼きおにぎりと総菜を買って車内に持ち込んだら、これが正解。米も味噌もバツグンのオヤジ好みのおにぎりで、量もちょうどいい。これなら晩飯までにもう一丁、地元料理に挑戦できる。
狙うは新庄。約1時間の乗り継ぎ時間がある。何か探して食べるタイムトライアルにもってこいだ。

北尾トロさん
福島の味噌は赤みがかっていて、少し辛口の味わいなんです。

――旅はつづく。

文:北尾トロ 写真:中川カンゴロー

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北尾 トロ(ライター)

1958年、福岡で生まれる。 小学生の頃は父の仕事の都合で九州各地を転々、中学で兵庫、高校2年から東京在住、2012年より長野県松本市在住。5年かかって大学を卒業後、フリーター、編集プロダクションのアルバイトを経て、26歳でフリーライターとなる。30歳を前に北尾トロのペンネームで原稿を書き始め『別冊宝島』『裏モノの本』などに執筆し始める。40代後半からは、日本にも「本の町」をつくりたいと考え始め、2008年5月に仲間とともに長野県伊那市高遠町に「本の家」を開店する。 2010年9月にノンフィクション専門誌『季刊レポ』を創刊。編集発行人を務めた。近著に『夕陽に赤い町中華』(集英社)、『晴れた日は鴨を撃ちに 猟師になりたい!3』(信濃毎日新聞社)がある。