日頃、日本各地でさまざまな料理を食べ回っているdancyu編集長・植野が「令和元年に感動した五皿」を紹介します。
恵比寿の喧騒から離れた場所に静かに佇むフレンチレストラン「ルコック」は凄い。前菜からデザートまで、深い旨味がすっと寄り添ってくるような自然体の美味しさがある。どんな高級食材やテクニックを用いているのだろう、と思って比留間光弘シェフに聞くと「別に、普通ですよ」と穏やかに微笑む。こんなにさりげなく、素晴らしく美味しい料理を出すところが凄い。
その代表がスモークサーモンだ。軽やかで、ふっくらと、しっとりとしたその食感と味わいが口の中に広がると、初めて食べた人は感動し、その後何度も食べたくなり、幸福な余韻に浸る(僕がそうであったように)。
スモークサーモンというと、オードブル皿にへばりついているような塩気の強いものを思い浮かべるかもしれないが、繊細な食感と豊かな風味、まろやかに溶けていく旨味は、これはまったく別物だ。スモークサーモンがここまで美味しくなることに驚く。
生クリームにシブレットやフルーツトマトなどを加えた付け合わせのクリームも素晴らしい。これを添えて食べると、さらにサーモンの旨味が引き立つ。白ワインを合わせると、幸福度はさらにアップする。
“今年印象に残った皿”として紹介しているが、僕は何年も前から、この店に行くたびに必ずこれを食べている。通常は前菜メニューなのだが、いつも“前菜の前の前菜”として食べる。そして、今年もやはり印象に残る一皿でいてくれた。
帰り際に「今日も素晴らしく美味しかったです!」と言うと、シェフは微笑みながら答えてくれた。「いえ、普通ですよ」。
※この素晴らしいスモークサーモンのレシピをdancyu2019年12月号「鮭とサーモン」特集に掲載しているのでご覧ください!
文:植野広生 写真:海老原俊之