
中国料理の伝統技法に根差しつつ、和のテロワールを巧みに織り込んだ食材使い、繊細な仕立ての四川名菜に定評のある東京・南青山の名店「慈華」。3回目の出店となるdancyu祭2025では、同店きってのスペシャリテ「麻婆豆腐」が満を持してメインメニューに参上。これまた名物の「よだれ鶏」も昨年の好評に応えて登場し、二大看板で祭を熱く盛り上げてくれそうだ。
舌の肥えた数多の中華ファン、とりわけ四川料理好きをして、「レジェンド・オブ・麻婆豆腐」と言わしめる「慈華」の四川麻婆豆腐。とかく麻辣のシャープな辛味ばかりが強調されがちな名菜だが、オーナーシェフ田村亮介さんが研究に研究を重ねて完成させたシグネチャーは、香りは複雑にしてコクと旨味は軽快なまとまり。「刺激と味わいは別のもの」という田村シェフの言葉を裏付けるがごとく、真っ赤な色合いに比して辛味はほどほど。一口目のパンチと入れ替わりに、しみじみと体に沁み入る余韻の深さがクセになる。
田村流の四川麻婆豆腐は、あえて豆腐の水切りをせず、豆腐から浸透圧で染み出る水分をだし代わりに、麻辣醤とともにふつふつ煮込むのが特徴。最初は弱く火を入れ、あるいは止め、仕上げは強火で焼きつけていく緩急自在の火使いで、鮮烈な香りが弾け、やがてシンプルな白色の豆腐がじわじわと麻辣色に染まっていく様子は圧巻。会場では、そのライブ感あふれる調理風景を目の当たりにできる楽しみも!
熱々をふうふう言いながら頬張りたい麻婆豆腐に対して、冷たい前菜感覚でいただけるのが、もう1品の「よだれ鶏」。低温で火を入れ、余熱で旨味を封じ込めた鶏むね肉は、肌合いはしっとり、噛むそばから“さくっ”とほどける独特にして驚きの食感。よだれ鶏を食べ慣れた人も、思わず目をみはってしまうこと必至の一皿だ。
こちらは、花椒の痺れ感と唐辛子の辛味、スパイス感がよりストレートに切り込んでくる麻辣ソース仕立てで。ビールやオレンジワインが相棒なら、なおさら箸が止まらなくなること請け合いだ。
文:堀越典子 撮影:海老原俊之