
“食の外交官”とも称される公邸料理人として各国で活躍した岩坪貢範、工藤英良両シェフが実際に公邸会食で振る舞ったメニューを提供。大使や各国ゲストから好評を博し、リクエストが絶えなかった同メニューを祭で特別に再現してもらう。元・公邸料理人自らがもてなす「私のひと皿」。貴重な味を食する機会をお見逃しなく!
公邸料理人としてそれぞれ3ヶ国・合計約10年の経験を積み、今は日本で活躍するシェフ2名が、今回特別に祭に来場! 世界のVIPたちをもてなしてきた料理を振る舞う、公邸会食の味を体験できる機会は滅多にない。外交の最前線で勝負してきた公邸料理人のひと皿をぜひ体験してみてほしい。
世界に約230ヶ所ある日本国大使館、総領事館、国際連合などの日本政府代表部の在外公館で料理人として会食を取り仕切る「公邸料理人」。料理を通して日本の外交活動に携わることから、“食の外交官”とも称される仕事だ。
「多忙を極める大使との連携を常に図り、バトラーやサービススタッフと密にやりとりをしながら、与えられた環境下で宴席の話が弾む料理をつくり上げることが公邸料理人の使命です」と話す岩坪シェフ。1人の大使に同行し、カナダ、南スーダン、バチカンの3ヶ国、合計約10年を公邸料理人として過ごした。多い時で週3回の公邸会食をはじめ、赴任地の環境によっては大使の日常の食事や職員の食事をつくることも。国によって手に入る食材や調理環境も異なり、さらには客人の好みや年齢、宗教的背景などをふまえたうえで、大使と客人の話題となるような料理を予定時間内に提供する。料理人として全ての要素を必要とされ、そのレベルの高さも求められる。
「各国大使館の“おもてなし最前線”が公邸会食。大使や総領事が持っている会のイメージを膨らませて料理で具現化。和食をコンテンツとして、各国の方々を日本のファンにする仕事」と工藤シェフは語る。意図をしっかりと聞き出し、提案として打ち返す。時間勝負の外交の場で大使の思いが花開くように、そのひと皿に、コースにさりげなく全てを込める仕事なのだ。発注者である大使あっての料理であり、その中で個性をいかに出すかが問われる。カナダ、中国、フランスの3ヶ国で1,200以上もの公邸会食を手掛けるうちに、多様性、ラグジュアリー、クライアントへの3つの対応力がつき、その豊富な引き出しは今も仕事に生かされているという。「国外で日本の食に向きあうのは、料理人としてかけがえのない経験。そもそも料理のすごいところは人を元気に、笑顔にできること。海外ではさらに、日本の食が人をつなぐ武器となる」と工藤シェフ。
今回、祭に参加するにあたり、岩坪シェフが選んでくれたのも、公邸料理人時代のもっとも思い出深い一品だ。「会食におけるメイン料理はその国の食材、特に牛肉を使ったメニューを親善の意を表してお出しすることが多く、さらにその料理に合う地元のワインを合わせると話が弾むんです」と岩坪シェフ。時間と手間暇をかけて柔らかく、牛肉の旨味は残してさっぱりと仕上げた牛肉のワイン煮込みは、グリルしただけのような肉料理が苦手だったという大使をも魅了し、内外から何度もリクエストを受けた渾身のひと皿だ。さらにゲストの年齢や好みに合わせてお出しする部位も変えるという細やかな心配りがゲストたちの心を掴んだ。つけ合わせは、その国で採れる野菜のピューレを添えることが多かった。今回添えたとうもろこし粉でつくるイタリア料理のポレンタはバチカン大使館時代の思い出の味。家族のように共に時間を過ごした現地のサービススタッフから教わった地元の味だという。「スタッフ間のコミュニケーションは会食を成功に導く鍵。ゲストの詳細なデータも、地元で採れる食材やその調理法も、大使や、スタッフからの情報次第なので、コミュニケーション能力は大事ですね。語学をはじめ、日々好奇心を持って学べること、そのための体力も公邸料理人であるためには必須だなと思います」と岩坪シェフ。海外で鍛え上げられた公邸料理人がつくる、公邸会食という限られた人しか味わえなかったひと皿が、祭で特別に登場する。
日本料理の焼き物の技法・若狭焼きに欠かせないのが炭火。だが、海外の大使公邸では炭火の使用は安全上禁じられていた。そこで工藤シェフは和洋の料理法を横断し、フレンチのポワレの技法でフライパンを使ってじっくり火入れするという、揚げ焼きスタイルの新たな若狭焼きを考案した。日本のように和食に適した環境が揃わない国で、和のもてなしを続けてきた工藤シェフ。この「甘鯛の若狭焼き」は、そんな制約から生み出されたまさに公邸料理人の真骨頂ともいえる一品なのだ。各国ゲストには「ウロコのパリパリ、サクサクがおいしい」と日本流の魚のおいしい食べ方を知ってもらい、日本料理の若狭焼きの味をすでに知っていた元・首相には「つくるのが難しいと聞く料理だけどおいしいね」と改めてその味を認めてもらえたという。もちろん大使もお気に入りのひと皿だ。公邸料理人時代に手がけた数百人単位のパーティーでは、大人数に対応できるようにフライパンで焼いてから、ホットプレートで保温して振る舞っていたという。今回の祭でもフライパンとホットプレート使いの合わせ技で、会食同様のおいしさを提供する。公邸料理人としての創意工夫が詰まった、工藤シェフの若狭焼きをぜひ味わってみてほしい。
一般社団法人国際交流サービス協会
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編集:出口雅美(maegamiroom) 文:田中祐子 写真:宗田育子