沖縄の名店「宗像堂」でパンづくりを学んで卒業し、栃木県佐野の山奥に店を構えた「キサン製作所」。その自然な旨味が詰まった味わいは地元民にも大人気です。東京で手に入る貴重な機会をお見逃しなく!
栃木県佐野市の中心部から車で30分。過疎に近い上仙波という小さな集落にある、築140年の古民家が、大森梓さんの営む「キサン製作所」だ。ロックダウン中の2020年の夏から家族総出で改装し、2021年のゴールデンウィークについに開店を迎えた。
子供の頃に『からすのパン屋さん』を読んで、真っすぐパンの道に進んだ女の子は、高校卒業、専門学校を経て東京・渋谷区にあるパン屋に就職したけれど、実家を離れ、大都会でひとり黙々と仕事をこなしたが、いつしか疲れ果ててしまった。実家に舞い戻ったものの、仲の良い家族に背中を押されて、家族旅行でも何度も訪れた沖縄へ、半ば強引に移住をしたことで、やっぱりパンの道に戻ることになる。「宗像堂」に出会ったのだ。
現代的な製パンの定石にとらわれず、自分の感覚を信じて独学でパンを学び、進化し続ける恩師・宗像誉支夫さんの姿勢は心に刻まれた。まるで家族に囲まれるように暮らした、沖縄での3年3カ月のあと、フランス・ノルマンディーの農園パン屋「シャントゥ・ラ・ヴィ」で住み込みで働き、自給自足の生活の中で身をもって体験した、人間本来の生活様式を体の中に沁み込ませて帰国、まっすぐ佐野に移り住んだ。
たった一人での薪窯づくりは困難を極め、最初の火入れまでに3カ月もかかった。薪割りも、生地作りも、窯での焼成も、すべての作業を、自分と対峙しながら限界と思えるところまでやっている。フランスの田舎で思い描いた素朴なハード系のパンを、そのまま佐野の地で焼いてみても、田舎のおばあちゃんおじいちゃんが、おいしいおいしいと買いに来てくれる。強い主張はしないけれど、体のなかにすーっと入って、ハムやバターやチーズの旨味に寄り添ってくれる。そんなおいしさは、一口食べれば、誰にでも伝わるのかもしれない。
※当日は内容や盛り付けが変更になる場合もあります。
撮影:伊藤徹也 文:編集部