東京・駒場東大前にある「七草」は、四季の移ろいを大切にした優しい和食店です。祭では、店主の前沢リカさんの想いが詰まった特製いなり寿司を販売します。
「七草」のおまかせの献立は野菜と乾物が主役。すり流し、白和え、炊き合わせなど一品一品に旬の野菜をふんだんに使い、豆や湯葉などの乾物を合わせる。移りゆく季節を感じさせる料理ばかりだ。すべてに通じるのは、素材のピュアな味わいを素直に生かすということ。まるでわが子のように野菜を慈しむ店主、前沢リカさんの手にかかれば、なじみの野菜でも目の覚めるような生き生きした表情を見せる。滋味に溢れたその料理を味わうことで、身も心も洗われてやさしい気持ちになれるのだ。
下北沢で始めた店を現在の富ヶ谷に移したのは6年前。骨董屋だった建物をリノベーションした店は、前の店と同様、しつらいの端々まで前沢さんのセンスが光る。
そんな空間で味わう料理こそ「七草」の本領ではあるのだが、コロナ禍で始めたテイクアウトで気持ちに変化が起きたという。
「ご高齢の方や小さいお子さんがいる方など、コロナではない理由でも店に来られない方が多いことに気づいたんです。だったら、テイクアウトにも力を入れてみようかなと思い始めて。私は酢飯が好きなので、この辺りを通る人がスナック感覚で買って帰れるいなり寿司をつくったら楽しいかもと構想を練っているところなんです」
今回、祭で販売するいなり寿司は、「七草」の新たな展開のプロローグ。試作を重ねて選んだ油揚げを甘辛く炊き上げ、店と同じ栃木の農家から取り寄せるコシヒカリで酢飯をつくりと、祭の当日は前沢さんもフル回転。しみじみと味わい深いいなり寿司を頬張れば、和みのひとときが訪れるだろう。
※当日は内容や盛り付けが変更になる場合もあります。
文:上島寿子 撮影:伊藤菜々子