【七草】王道を極めた洗練されたいなり寿司

祭メニューは！

特製いなり寿司　1,200円

たまり醤油を加えてしっとり炊いた油揚げが包むのは、赤酢を加えたコクのある酢飯。懐かしいのに洗練された味わいに舌がときめく。油揚げと酢飯の絶妙なバランスも見事だ。俵形のスタンダードなものに加えて、季節の味覚を酢飯に混ぜた小さないなり寿司も入り、こちらは表面を炙って香ばしさをプラス。日本酒に手が伸びること請け合いだ。センスのいい白い紙箱に入った一品はお土産にもぴったり。（※写真の木箱は撮影用のものです）。

素材のピュアな味わいを生かす

店主の前沢リカさん。

「七草」のおまかせの献立は野菜と乾物が主役。すり流し、白和え、炊き合わせなど一品一品に旬の野菜をふんだんに使い、豆や湯葉などの乾物を合わせる。移りゆく季節を感じさせる料理ばかりだ。すべてに通じるのは、素材のピュアな味わいを素直に生かすということ。まるでわが子のように野菜を慈しむ店主、前沢リカさんの手にかかれば、なじみの野菜でも目の覚めるような生き生きした表情を見せる。滋味に溢れたその料理を味わうことで、身も心も洗われてやさしい気持ちになれるのだ。

下北沢で始めた店を現在の富ヶ谷に移したのは6年前。骨董屋だった建物をリノベーションした店は、前の店と同様、しつらいの端々まで前沢さんのセンスが光る。

そんな空間で味わう料理こそ「七草」の本領ではあるのだが、コロナ禍で始めたテイクアウトで気持ちに変化が起きたという。
「ご高齢の方や小さいお子さんがいる方など、コロナではない理由でも店に来られない方が多いことに気づいたんです。だったら、テイクアウトにも力を入れてみようかなと思い始めて。私は酢飯が好きなので、この辺りを通る人がスナック感覚で買って帰れるいなり寿司をつくったら楽しいかもと構想を練っているところなんです」

今回、祭で販売するいなり寿司は、「七草」の新たな展開のプロローグ。試作を重ねて選んだ油揚げを甘辛く炊き上げ、店と同じ栃木の農家から取り寄せるコシヒカリで酢飯をつくりと、祭の当日は前沢さんもフル回転。しみじみと味わい深いいなり寿司を頬張れば、和みのひとときが訪れるだろう。

上島 寿子 （文筆家）

東京生まれで、銀座の泰明小学校出身。実家がビフテキ屋だったため、幼少期から食い意地は人一倍。洋酒メーカー、週刊誌の記者を経て、フリーに。dancyuをはじめ雑誌を中心に執筆しています。

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