「ビートイート」の竹林久仁子さんは料理人にしてハンター。そんな異色の料理人のジビエカレーが登場!骨太でエネルギッシュなのに、体にすっとなじむやさしくナチュラルなスパイスカレーを味わってみてください!
「私が使うのは自分や仲間が撃ちとめたジビエ。雄か雌か、どの山でどのように仕留めたのかといったことまでわかったうえで料理します。単に仕入れたジビエとは気持ちの込め方もまるで違うと思います」
こう話すのは「ビートイート」の竹林久仁子さん。彼女は料理人にして猟師。猟期の冬は長野や北海道などに出かけて猟銃を構える。
そのジビエで仕立てたカレーは「ビートイート」の代名詞だ。これを味わいに遠方から訪れるお客も少なくない。
ジビエカレーというとワイルドな味を想像するかもしれないが、竹林さんのカレーは野生のエネルギーを宿しながらもやさしくナチュラル。ジビエのおいしいところだけを抽出したように澄んでいる。スパイス使いも同様だ。香りが弾けるような派手さではなく、じんわりと体に染み入る穏やかさに引き込まれる。そのカレーは食べるほどに食欲が湧き、食後もすっきり気持ちいい。
「dancyu祭」ではそんなジビエカレーから、エゾ鹿と猪のビンダルーが繰り出される。ビンダルーは西インド・ゴア地方に伝わる酸味を効かせたカレーだ。通常は豚肉でつくるが、代わりに山中を駆け回っていた脂たっぷりの猪肉を使用。北海道のエゾ鹿を組み合わせて独特のコクを出している。猪肉は弾力があり、脂身のシャクシャクした歯触りが小気味いい。エゾ鹿は柔らかくクセは皆無。赤身肉の旨味が味わえる。加えて、印象的なのは香りの華やかさだ。乾燥ではなくフレッシュのミントをふんだんに使っているという。さらに、酸味の元となるワインビネガーに替えて、京都・丹後で無農薬の自家栽培米から醸す「富士酢」を投入。純米酢特有の発酵の風味が味に奥行きを生み出している。
ビンダルーが山の滋味なら、もう一つのカレーは海の滋味。天然のブリを使ったマスタードカレーも食べ逃せない。
「マスタードシードを多めに使って生臭みを抑えつつ、香ばしさを添えています。他のスパイスも魚の旨味を引き出すような構成に。辛さは控えめだから、お子さんも食べられると思います」
これらのカレーはライスを添えて単品で販売するほか、合い盛りにもできる。海と山の滋味が手を取り合ったとき、おいしい相乗効果が生まれるはずだ。
小田急線喜多見駅から徒歩1分。7席のカウンターで繰り広げられるビートイートワールドは幅広い魅力をもつ。昼はカレー3種に副菜がつくセットや時折、ビリヤニも登場。夜は一転、ジビエを中心にしたコース料理になり、ある日のコースには鹿のローストや猪の焼売などが供された。メインはジビエの鍋が定番で、脂が甘いツキノワグマなどが振舞われる。コースには魚や野菜もふんだんに盛り込まれ、ナチュラルワインがくいくい進む。
そんな竹林さんの料理のベースになるのは、マクロビオティックの思想。体を健やかに保てるよう素材はできるだけオーガニックを使い、調味料も自然なものを選んでいる。ジビエにたどり着いたのも理由は同じ。野生の肉はオーガニックミートだからだ。一方、スパイス使いについてはインドの伝統医学、アーユルヴェーダをベースにし、カレーごとに効能も考えながら組み立てている。食べ終えると体がぽかぽか温まり、元気が湧くのはそのため。
こぢんまりとしたカウンターは、体と心のパワースポットでもあるのだ。
※当日は内容や盛り付けが変更になる場合もあります。
文:上島寿子 写真:伊藤菜々子、富貴塚悠太、平野太呂