食べる小魚とミックスナッツだけでつくれちゃう田作りです。普段のおつまみにもぴったり!荻野恭子さんの目からウロコのおせち論と毎年挑戦したくなる、気楽なおせちづくりを紹介します。
昔は冷蔵庫もなかったし、年末年始はどこも休みだったから、新しい年を迎えるおせちの仕込みは、年の瀬の大事な作業でした。「でもね」、料理研究家の荻野恭子さんは言います。
「今はもう、冷蔵庫があるから保存食の意味合いはないし、3日間もおせちを食べ続けるような過ごし方はしていないでしょう?」
確かに、休みのとり方や、家族の集い方も変化しています。
「張り切っていっぱいつくったのに、余ったらもったいないじゃない。うちの家族だって、いろいろ並べても自分の好きなものしか食べない(笑)。今の暮らしに合った形でつくったほうがいいんです。無理して大量につくらないこと。2人分くらいずつつくって、『もっと食べたかったなあ』と思わせるくらいが、来年のやる気にもなってちょうどいい」
とはいえ、黒豆、煮しめ、なますなど、定番のおせちは一口ずつでも食べたいし、せっかくなら重箱に詰めて、晴れやかな食卓にもしてみたい。
「だから、少量ずつがいいの。少量でつくれば、品数が多くても苦になりません。それに、おせちは神様に供える食事なんです。神様に供えて、それを家族とともに食べて、新しい年も無事に過ごせますようにとお祈りするものです。そういう特別な日の料理だということを、しっかり伝えていきたいと思っています」

荻野さんの実家は料理屋さんです。両親は店の仕事で忙しく、家の食事は明治生まれのおばあさんがつくっていたそうです。
「子供の頃、おせちづくりは一大イベントだったことをよく覚えています。私は食いしん坊だったから、いつも台所で祖母につきまといながら味見をさせてもらったり、料理の手伝いをしたりして過ごしていたのね。明治生まれの人のおせちなんて大変よ。27日頃から黒豆の準備を始めていたし、煮しめも、素材ごとに別々に煮てから合わせていました」
その後、料理の学びを続けて大人になった荻野さんは、懐石料理店でプロに学んだこともありました。「和食ならではのおいしさ、つくり方の大事なところは受け継ぎたい」と思うと同時に、今の暮らしに合う調理方法にすることも考え続けてきました。伝統のおせちをつくるからといって、“昔ながら”をすべて残す必要はない。そうして、辿り着いた一つの答えが、ポリ袋調理だったのです。
「とにかく、誰にでもつくれるようにしたかったの。素材も、おせちづくりにしか使わない特別なものでなくていい。手に入りやすい食材で、1品でも2品でもつくってみようと思えて、おいしかったらすぐ繰り返しつくれるようにと考えました」
紹介するのは14品。大晦日に一から作業を始めても、半日もあれば完成しますし、つくった人がヘトヘトにはならず、楽しく食べて飲む余裕もあるはずです。
さあ、用意するのは、ポリ袋と、スーパーで手に入る食材だけ。楽な気持ちでチャレンジしてみましょう!

ポリ袋おせち入門編は、材料をすべてポリ袋に入れて、袋の中で混ぜれば出来上がり。ボウルなどの洗い物が出ない、調理台のスペースもとらない、そのまま冷蔵庫に入れられるので、保存容器も要りません。袋の中で、調味料をしっかりなじませることだけがポイントです。田作り、和え物、なますなどが次々出来上がる楽しさに、おせちづくりの概念が変わります。

田作り(ごまめ)はお正月用にしか売っていないから、無塩の食べる小魚でも十分です。最近はコンビニでも売られている、無塩のミックスナッツも加えればさらにおいしくなりますよ。普段のおつまみにもぴったりです。

| 食べる小魚 | 30g(食塩無添加) |
|---|---|
| ミックスナッツ | 50g(食塩無添加) |
| A | |
| ・ きび砂糖 | 大さじ1 |
| ・ 味醂 | 大さじ1 |
| ・ 醤油 | 大さじ1/2 |
小魚とミックスナッツを耐熱皿に広げる。ラップをかけずに電子レンジ(500W)に2分かけて乾かす。

Aを耐熱容器に入れ、噴きこぼれないよう30秒~1分ほどレンジにかける。二枚重ねにしたポリ袋に1を入れ、Aを回しかける。

よく振って、全体に調味液をからませる。粗熱が取れるまで袋の口を開けておく。



和食、フランス料理、中国料理をはじめ、世界65カ国の家庭料理の知恵を備えた料理研究家。アジア諸国で目にしたポリ袋の活用方法に着想を得て、早くからポリ袋調理を提唱。著書に『ポリ袋漬けのすすめ』(文化出版局)ほか多数。
この記事はdancyu2021年1月号に掲載したものです。

文:岡村理恵 写真:工藤睦子