信州の郷土料理、おやきの魅力に目覚めた北尾トロさん。まずは自分でつくれるようになることを決意!信州おやき協議会会長の小出陽子さんにおやきのつくり方を披露してもらうことになりました。
長野市の人気店「ふきっ子おやき」店主で、信州おやき協議会の会長を務める小出陽子さんが、臨時おやき教室を開催してくれることになった。僕という初心者を通じて、おやきの魅力や家庭で簡単にできるつくり方が伝われば幸いだ。小出先生、よろしくお願いします!
「おやきは家庭の食卓に並ぶ手軽な食べ物です。工程も複雑じゃない。やってみればコツがつかめるので、さっそく始めましょう。どのつくり方にしましょうか」
おやき店「ふきっ子おやき」二代目店主。おやき教室やイベントでの指導を精力的にこなし、信州おやき協議会代表も務める。信州大学認定ながの食品加工マイスター。著書に『おやきの教科書』(信濃毎日新聞社)などがある。
先生によると、おやきには<焼き><蒸かし><焼き蒸かし>があるそうだ。また、ベーキングパウダーやドライイーストを使うかどうかで皮の食感も大きく違ってくる。これらを使えばふっくらした仕上がりになることも覚えておこう。
「おやきはもともと、米があまりとれなかった山間部で、主食として食べられてきました。ルーツは囲炉裏の灰の中で蒸し焼きにする<灰焼きおやき>。平野部では、薪の材料を節約するために蒸かして食べる文化が発達しました。だから、正しいつくり方だなんてうるさいルールはなく、具も自由に入れて大丈夫です。とはいえ、今日は初めてですから定番の具を用意しました。野沢菜とあんこを使って、<焼き>と<蒸かし>の基本をマスターしましょう」
具はそれぞれの家庭の味つけでOK。僕のような料理下手なら市販の総菜やあんこで済ます手もある……。
さっそく手抜きかと思われそうだが、おやきの出来栄えを決定づけるのは、なんといっても皮の部分。食感と直結する生地づくりと焼き・蒸かし方をしっかり学びたい。ただ、僕は人並み外れて不器用だからなあ。
「さ、生地づくりを始めます」
いじいじ考える間もなく作業開始だ!
A | |
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・ 中力粉 | 150g |
・ 熱湯 | 150ml |
B | |
・ 中力粉 | 150g |
・ 水 | 75ml |
好みの惣菜 | 400gずつ |
具材を3cmほどの大きさに丸めておく。
ボウルにAの中力粉を入れ、熱湯を3~4回に分けて注ぎながら菜箸4本を使って粉気がなくなるまで混ぜ合わせる。
生地が手で触れるぐらいの温度になったら、ひとまとめにするように練り合わせて、冷めるまで置いておく。
別のボウルに入れたBの中力粉に、水を一気に加えて菜箸で粉の塊がないように混ぜ合わせる。ひとまとめになったら、2の生地と合わせて、シワがなくなるまで練り合わせる。ラップをかぶせて30分置いておく。
生地を筒状に丸めて10等分に切り分ける。手に中力粉をつけて1個づつ丸くする。
生地を手のひらでつぶして、縁を伸ばしながら円を大きくしていく。中心は厚めに、縁はうすく伸ばしていく。
具を生地の中央に置き、周囲をすぼませるように持ち上げて、口を閉じる。余った生地はねじり切る。
弱火で熱したフライパンかホットプレートに、おやきを並べる。強火にして生地に焼き目がついたものから順番に裏返していく。
100mlの水をフライパンに加え、蓋をして中火で7分蒸し焼きにすればでき上がり。
蒸し器にクッキングシートを敷いて、おやきを1cm以上離して並べていく。強火で7分蒸す。火を止めたら蒸し器ごとおろして、荒熱をとってからザルに移す。
「まずまず形になっていますよ。では切ってみましょう」
どんなもんだいと真っ二つにしてみた。む。上下左右が均等の厚みになっている先生作に対し、僕のは明らかに下が分厚い。余った生地のねじ切りがまだ甘いのだ。
まずは自分のを食べてみた。うわ、旨い! ジューシーで素朴な手づくり感たっぷりのマイおやきだ。
先生のを食べてみた。皮がモチモチでうすく、具との一体感がすごい。こちらは洗練されたプロの味か。何個でも食べられそうだ。
「私は毎日つくってますから(笑)。でも、自分でつくるとおいしいでしょう。ソウルフードと言いながら、近頃は信州でもおやきのつくり方を知らない人が増えていますが、本来は日常食であり、冠婚葬祭などに欠かせない行事食なんですよ」
おやきは、おかずを具にすることで主食にもなる。その実力は、全国どこでも通用すると僕は思う。
粉ものには太るイメージが付きまとうが、おやきには野沢菜もひじきも切り干し大根もよく合う。生地をうすく伸ばすコツさえ覚えたら、ダイエットにも良いのではないだろうか。
――つづく。
文:北尾トロ 写真:中川カンゴロー