威風堂々な生姜焼き
食べた瞬間、腰の入った正拳で突かれる生姜焼である。
「どうだ。旨いだろ」そう言われて、食欲のツボを突かれ、「まいりました」と、笑ってしまう。
むっちりとした豚肉は、甘味を滲ませ、玉ねぎはシャキッと弾け、生姜とにんにくの刺激がキックする。甘辛味のピタリ決まったタレが、ご飯を恋しくさせる。あとは脇目も振らず一心不乱。肉を、白飯を、猛然と食べ進む。
目黒区駒場の住宅街で昼も夜も行列ができ、日本一の定食屋ともいわれる「菱田屋」の看板メニュー、豚肉生姜焼は、なぜかくも人を魅了するのか。皆、虜となってしまうのか。
そのつくり方は、これ以上ないほど シンプルであった。タレを混ぜ、肉を焼き、からめて、ハイ完成。
「コツといえば、豚肉に火を通しすぎないことくらい」と、五代目の菱田アキラさんは言う。弱火でじわじわ焼くと、表面から肉汁が流れ出てしまう。最初に強火で一気に片面を焼いて、あとは余熱で火を通せば柔らかく仕上がり、味も逃げないのだという。
「ただ正式には教わっていません。先代がつくっているのを見て始めました」
菱田さんが生姜焼の改良を手がけたのは店を継いですぐのことである。
見よう見まねでつくって食べたら、「いける」と確信した。先代は腕肉の薄切りを使っていたが、部位を変え、豚肉自体の質も変えようと考えた。
肉屋に相談すると、もったいないと言われたが、「肉屋さんも、家ではリブロースの薄切りで生姜焼をつくっていると言うんです」。それならと同じ部位で、量も増やし、値段も上げた。
この生姜焼はたちどころに人気を呼び、店に行列ができる契機にもなった。「昔の味だから、酒や味醂なんて洒落たものは使わない。それに質のいい豚肉だからこそ、シンプルな味つけで食べるほうが贅沢なんです」
強火で一気に焼くから柔らかい。余計な調味料がないから風味が生きる。ゆえに「菱田屋」の生姜焼は威風堂々。心も撃ち抜く正拳突きの味なのだ。
菱田屋の生姜焼きのつくり方
材料 (1人分)
豚肉 | 250g(薄切り。部位はリブロース、肩ロースなど。3mmほどの厚みの肉ならなおよし) |
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玉ねぎ | 1/8個(約30g縦に薄切り) |
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サラダ油 | 大さじ1 |
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好みのサラダ、生野菜 | 適宜 |
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★ タレ | |
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・ 生姜 | 1片 |
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・ にんにく | 1片 |
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・ 醤油 | 大さじ2 1/2 |
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・ 砂糖 | 大さじ1 |
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1タレを混ぜる
生姜、にんにくをすりおろし、醤油、砂糖とよく混ぜておく。パンチのある甘辛味を目指す。
2焼く
フライパンにサラダ油を入れて中火にかける。十分に熱したら豚肉を手で一枚ずつ広げて並べ、玉ねぎを散らす。加熱して焼くのは片面のみである。好みの焼き色がついたら全体を返し、火を止める(肉の表面に肉汁が浮き出る前に返すのがベスト)。蓋をして肉の色が変わるまで1分置く。
3タレとからめる
フライパンを強火にかけ、1のタレを加えて全体にからめる。加熱しすぎると肉が硬くなってしまうため、タレが煮立ったら、すぐに火を止める。器に盛り、好みのサラダ、生野菜を添えて完成。
店舗情報
- 菱田屋
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- 【住所】東京都目黒区駒場1-27-12
- 【電話番号】03-3466-8371
- 【営業時間】11:30~13:50(L.O.) 18:00~21:50(L.O.) 土曜は夜のみ
- 【定休日】日曜、祝日
- 【アクセス】京王井の頭線「駒場東大前駅」より3分
※この記事の内容は2018年2月号に掲載したものです。