
福岡ではここ数年、うどん居酒屋なる飲み処が人気を集めている。「二◯加屋長介」は、その潮流を生んだ先駆け。博多駅地下の一角に位置する通し営業の店は、夜の部だけではなく、旅の終わりの名残のひとり飲みにも頼れる存在だ。
福岡の麺と聞いて多くの人の脳裏に浮かぶのは豚骨ラーメンかもしれないが、実はうどん派という地元民は多く、とあるアンケートではラーメンに圧勝したほどその愛は深い。首都圏をはじめ福岡発うどん店の全国進出が見られる最近は、やさしい食感&いりこだしが効いた汁の旨さが少しずつ認知されているようにも思える。
朝早めの時間から暖簾をかかげる専門店もあり、あちらこちらでうどんをおいしくすすることは可能だが、ここ数年は“うどん居酒屋”なる店が増加中。そのあらたな流れを生んだのが、2010年の誕生以来、支店、系列店と商いを広げてきた「二◯加屋長介」だ。なかでもJR博多駅地下の飲食街に位置する「JRJP博多ビル店」は、新幹線の改札まで数分、空港に至る地下鉄駅も10分足らずな上、昼前から夜までの通し営業ゆえ福岡に別れを告げる間際にさくっと立ち寄ることもできるのだ。
店のつくりは、カウンター席が基本。多数の飲食店が集うエリアは壁で仕切られていないため、なかの様子が伺えるのが単独行動には心強い。うどんの冠がついているものの、居酒屋ですもの。焼酎や日本酒を含めて、アルコール類は幅広く充実。新鮮な魚介類から郷土料理まで、福岡や九州ならではの旅人の心をくすぐるつまみが揃うのがうれしい。というわけで、ひと仕事終えた後にしっかり飲んで食べたいという方も、満ち足りた夜を過ごせるのだ。





九州だし、飲むなら焼酎? 実際、焼酎は芋麦米と銘酒が幅広く揃うのだが、九州北部は日本酒文化圏でもある。ここのところ日本酒通から熱視線を浴びている「若波」「田中六五」や、長年のファンも多い佐賀の「東一」といった全国区のスター選手に加えて日替わりもあるので、醸造&蒸留のダブル攻めもおすすめだ。
料理のラインアップも盛りだくさんなのだが、まずはぜひ「博多名物ゴマサバ」を! ご存じない方のために説明すると、これはサバの種類ではない。真サバの刺身を醤油ベースのタレと合わせ、ゴマをたっぷりかけた九州北部ではお馴染みの品なのだ。新鮮なサバは刺身でももちろん旨いが、ほんのり甘めの醤油ダレがからむことで、焼酎や日本酒との相性は抜群に抜群に、ほんと抜群にアップ。合わせた「若波」はとろりとろけたサバの旨味とひとつになって互いを昇華させただけではなく、名残すっきりの役割も。ああ、口福。
よだれ鶏、肉豆腐と並ぶ店自慢の三大名物かから熟考して選んだ、「しっとり白レバー刺」もまた、品の良い旨味がとろとろとろ〜り。「濃厚チーズポテサラ」の表記に想像力を刺激されて頼んだ一品は、チーズがなかに潜んで期待通り濃密。ちびちびでも食べ応えがあり、旨味のワンダフルワールドに「田中六五」を合わせれば、しなやか&さりげない融合のドラマ。ぐい呑みにたっぷり注がれたはずの酒は……あら、もうない。おかわり〜。
「博多B級グルメ」と記された「カマボコバター」も、インパクト大。文字通りカマボコをバターでソテーしたシンプルなアテなのだが、旨いっ。酒を呼ぶ上、くにゅっとした食感でも魅せる。元祖といわれる長崎名物「雲仙ハム」のカツは、分厚い存在感をより引き立たせるさっくり衣の軽さが麗しく、心で拍手。





さて、忘れちゃならないのがうどんだ。ただし、悩ましい。シンプルなかけや月見などの熱いうどん、熱々に生卵をからめる釜玉うどん、ぶっかけなどの冷たいうどん、さらにはあさりや鶏スープ、カレー、もつ鍋アレンジの「もつしょうゆつけ」……う〜む、どうする? トッピングを含め、メニューの見開きを占める候補は多彩。ひとりならじっくり時間をかけて眺め、行きつ戻りつ考える楽しみもある。
最終的に今回頼んだのは、「ゴボ天」。ゴボウの天ぷらがのった、博多っ子が大好きな王道だ。この店のゴボウは、薄切り。うどんは程よいやわらかさで、つるつるもちもち、おいしいっ。すっきりした味わいのいりこと昆布のだし汁、噛みしめたゴボウからじゅわっとあふれる滋味、そして汁の染みたふにゃふにゃの衣で追加の一杯……。
まわりを見渡せば、女子を含めてひとり飲み率は高め。会社帰りと思しき地元のビジネスマンが、ビールで喉を潤してうどんを食べてという、気軽な利用も見られた。店があるのは「駅から三百歩横丁」と名付けられた、多様なジャンルの店が並ぶフロア。いい響きだ。そして、いい匂いがあちらこちらから漂う。福岡出張の機会が限られるなら欲張ってハシゴ酒もできるが、一度「二◯加屋長介」を訪れたなら、ふたたびしっかり腰を据えてと思うはず。うどんで締める福岡の夜は、心身にやさしくしみて忘れがたくなるのだ。

公式サイト
https://www.niwakaya-chosuke.com/niwakaya-chousuke
文:山内史子 写真:松隈直樹