
食いしん坊倶楽部メンバーで医師の平松玄太郎さんが、食いしん坊ゆえに気をつけたい健康について指南してくれるこの連載。今回は食いしん坊にとっては興味津々! 「味覚」について語っていただきます。
みなさんこんにちは。今回のテーマは「味覚」です。
味覚は従来、「甘味」「塩味」「酸味」「苦味」の4つと考えられていましたが、1900年代に日本の博士によって「うま味」の存在が提唱され、2000年に入ってから舌にそのうま味を感じる受容体があることが科学的に証明されたことから、現在では5大味覚と紹介されます。
それぞれの味を感じさせる物質は同定されており、塩味と酸味は漢字の通り「塩」や「酸」を摂ると感じ、甘味は「糖類」、苦味は「アルカロイド類」、うま味は「アミノ酸類」を摂取すると感じます。
糖とアミノ酸はエネルギー源として、塩はミネラルとして人間の体に必須な物質であるため、人間は甘みや塩味を“おいしい”と感じます。一方、アルカロイド類は生きていくために必須の成分ではなく、摂り過ぎると有害になるため、苦味は基本的に“まずい”と感じます。
もちろん糖や塩も摂り過ぎると高血圧や糖尿病の原因になるので、加減が必要なのは過去の記事(「病院搬送後すぐに足を切断するケースも!恐ろしい糖尿病①」)で取り上げた通りです。
酸についてはレモン水程度の弱酸性であれば体に負担なくおいしくいただけますが、塩酸のような強塩酸を飲むとヤバいことは想像に容易いかと思います。
食べ物の腐敗が進むと酸味や苦味がするので、まずいと感じるということは「食べたらダメ!」と人体に警笛をならしていると言っても過言ではない訳です。
それでも人間は長い歴史の中で酸味や苦味ですらおいしく安全に摂取する術を構築してきました。酸味が強くてもおいしいものとしては、柑橘類やお酢を使った料理などたくさんあります。

では苦味が強くてもおいしいものにはどのようなものがあるでしょうか。ビールやコーヒー等は世界的に人気がありますが、和食の世界では秋刀魚の内臓・うな肝・フキノトウ・ゴーヤーなど数多に存在し、改めて先人たちの知恵に深い尊敬の念を抱きます。
ちなみに腸(はらわた)がおいしい魚と言えば真っ先に秋刀魚が思い起こされますが、それは秋刀魚には胃がないため、食べたエサがすぐに排泄されるからです。また“うな肝”には肝臓の肝の字が使われていますが、決して肝臓だけを指している訳ではなく、内臓全般を指す言葉につき、ホルモンと同様の意味合いで使われています。
うま味については、ダイレクトに感じることができる食材はかつお節・昆布・干ししいたけなどで、要するに“だし”です。フランス料理や中華料理が油をベースにした料理であるのに対し、和食はだしをベースにした料理であるため日本人にはとてもなじみのある味です。
海外の料理でうま味を感じるものとしては、トマト料理やナンプラーを使った料理が紹介されますが、トマトは酸味が前面に出ますし、ナンプラーは香りが強いので、うま味を直接的に感じられるかというと、自分には……無理です。
最新のトピックスとしては、昨今6つ目の味覚として「脂肪味」というものが注目されています。
唐揚げやとんかつなど「ダイエットしたいのに、脂っこいものが食べたい!」と思うことは誰しもありますが、それはこの脂肪味を感じる受容体の存在のためとされています。脂肪も糖やアミノ酸と同様に人体に必須のものですが、やはりこれも摂り過ぎると脂質異常症の原因となってしまいます。
実は脂っこいものを食べ過ぎると胃がもたれるのも、この脂肪味と消化管が連動して起きている現象であるという説があり、ここでも人体にアラートを起こす機構が存在していることに感嘆してしまいます。
以前上げた記事(「病院搬送後すぐに足を切断するケースも!恐ろしい糖尿病①」)の中で、メタボリックシンドロームの死の四重奏である高血圧・糖尿病・脂質異常症・肥満症は「塩・糖・油・量の摂り過ぎ」と言い換えられると説明しましたが、実は人体は人類よりもずっと昔からそんなことくらいわかっていたのかもしれません。
次回はここまで登場していない「辛味」と「温度と味覚」についてお話ししたいと思います。
埼玉医科大学卒業、同大学総合医療センター 高度救命救急センター所属、同センターにて災害医長を担当。救急・集中治療専門医としてER・ICU・災害医療を生業とする傍ら、訪問診療・産業医・レースドクターなどにも従事。
編集:出口雅美(maegamiroom) 文:久保木 薫 写真:Shutterstock