
食いしん坊倶楽部のLINEオープンチャット「山手線!本気の昼飯マップ」で、メンバーから寄せられたランチメニューを徹底解剖してお届け。第9回は、高輪ゲートウェイ駅から徒歩3分。『レッサム フィリリ』の「チベタンセット1,300円」です。
JR「高輪ゲートウェイ駅」が2020年に開業して早5年。利用する機会はなかなかなさそう、と思っていましたが『レッサム フィリリ』と出会い、この駅で下車する理由ができました。ランチも魅力的ですが、ディナーメニューの「ギャコック鍋」8,848円(要予約、2〜4人前)もお気に入りです。
JR「高輪ゲートウェイ駅」から徒歩3分。『レッサム フィリリ』は、2001年にオープンしたネパール&チベット料理店だ。オーナーのパサン・ビスワカルマさんは1970年代にネパールから来日。今でこそ「インネパ料理」という言葉もできるほどネパール料理に注目が集まっているが、当時の日本にはネパール料理の専門店はほとんどなく、故郷の味を恋しく思っていたそう。そんな思いがきっかけとなってネパール出身の料理人を集め、『レッサム フィリリ』を開いた。
ネパール料理と一言で表しても、その国土は14.7万平方キロメートル(北海道の約1.8倍)と広大で、そのうえ多民族国家のため地域によって異なる食文化を持つ。『レッサム フィリリ』では、パサンさんの出身のナムチェバザールの味を中心にしながら、ネパールに広く伝わる料理を揃えているのが特徴だ。「この店の料理は複数のスパイスを使い分けながら、ほんのりと香るようなやさしい印象に仕上げています」と、パサンさん。
ヒマラヤンランチは全部で4種。「チベタンセット1,300円」にはトゥクパ、ブテコバット、アチャール(ピクルス・漬物)が並ぶ。
トゥクパは、羊や鶏など2〜3種の動物の骨や肉から出汁をとったスープに手打ち麺を入れた料理。スープは韓国料理のサムゲタンやソルロンタンのように骨から染み出すエキスが深いコクを生み、手打ち麺のモチモチした食感や刻んだ干し肉の噛み応えが良いアクセントとなる。やわらかな味わいでありながら不思議とクセになる旨さだ。
一方、ライスを炒めたプテコバッドは、ネパールのチャーハンとも言える。細かく刻んだにんじんやいんげんが入っていて、胡椒をピリッと効かせている。トゥクパをかけてスープご飯にしても美味しい。
ハリヤリ サグ(豆腐入ほうれん草ソース)をメインとする「ロサルセット1,300円」は、プーリー、アチャールの組み合わせ。一見カレーのようなハリヤリサグは、ほうれん草の青々とした香りを豆腐がなめらかにしている穏やかな味。スープのようでもあり、そのまま飲んでも美味しい。
プーリーは全粒粉の生地を丸くのばして油で揚げたパン。これが、フワフワでほんのり甘く、なんとも言えず美味。ほうれん草の旨みが凝縮された濃厚なハリヤリサグをつけると、生地の甘みがほうれん草の味わいをさらに引き立てるのだ。
「シェルパセット1,300円」は、エベレストの麓に住むシェルパ族のランチ。内容はシャクパ、ブテコバット、アチャール。
シャクパとはネパールの山岳民族に広く食べられている料理。羊や鶏などさまざまな肉から出汁をとったスープに、「エリ」というすいとんのようなモチモチした小麦粉のお団子やじゃがいもを煮込んでいる。肉のエキスが凝縮されていて、冬に食べたら体を内側からポカポカと温めてくれそうな包容力を感じる味わいだ。
そして「ヒマラヤンセット1,300円」は、チキンカレー、ライス、アチャールのセット。見た目はインドカレーと良く似ているが、ネパールのカレーはやさしい味わいでスパイスもほんのりと香るように使うのが特徴。鶏肉の旨みを引き出しつつ、五臓六腑にじわっと染み渡る穏やかな味わいに仕立てているので、サラサラとスプーンが進む。
ところで、すべてのランチに添えてあるアチャールは日替わり。この日は、干した大根とじゃがいもの組み合わせだった。いずれもレモン果汁をしっかりとかけていて、キュッと爽やかな味わい。干した大根のパリパリとした食感が心地よく、これだけでビールのつまみにできそうなほど存在感がある。
ところで、店内には木彫り細工やピカピカと光る銅製の調度品などネパールの装飾品が並んでいて、まるで博物館のよう。中でも目を引くのが、店内に入って左手の壁一面を埋め尽くす絵画だ。ネパールの絵師による壮大な「ブッダの一生の絵図」で、一枚の絵の中にブッダが生まれてから死ぬまでの物語が描かれている。ディナーの時間帯にゆっくり訪れ、これを鑑賞しながら一杯飲むのも一興。その際には食いしん坊倶楽部の推薦者、オグさんが教えてくれた「ギャコック鍋」8,848円(要予約、2〜4人前)も食してみたい。
文:吉田彩乃 写真:竹之内祐幸