上質の食材と丁寧な仕事で本当にどれも美味しい洋食店で、揚げものとしての醍醐味とアジそのもの旨味を絶妙なバランスで味わえる、素晴らしいアジフライに出会いました。
揚げものは、揚げ切った美味しさが好きです。しっかり火が入ることで素材そのものとはまた違った旨味が生まれるからです。大好物のアジフライも、最近よく見かける“中が生のレア”タイプは、正直あまり好きではありません。しかし、京都「洋食おがた」で“火が通ったレア”なアジフライを食べて感動しました。揚げものとしての美味しさとアジの素材そのものの旨味がバランスよく味わえたからです。素晴らしい!
「洋食おがた」の人気の理由は素材の良さはもちろん、緒方博行シェフとスタッフの丁寧な仕事にあると思います。カウンターからオープンキッチンの動きを見ていると、それがよくわかります。しかし、ちょっと困るのはすべて食べたいものばかりで、メニューを眺めて悩んでいるうちに酒が進んでしまうことです……。
ものすごく悩んだ末に、この日は以下の組み立てになりました。
①ポテサラとマカサラがまろやかに合体した“洋食屋のポテトサラダ・マカロニサラダ“
②根菜と葉もの野菜の食感と味わいのコントラストが楽しい“京都大原より秋野菜サラダ
③“活アジフライ レアに揚げて”
※注文していなかったけど、隣のお客さんに出されたのを見て急遽追加してもらった“からすみ餅”(海苔で包んで頂きます!)
④軽やかな旨味がギュッと凝縮した“活タチウオフリットおろしじょうゆ”
⑤茹で蟹などより濃厚な蟹の旨味が詰まった“紅ズワイガニクリームコロッケ”
⑥シンプルだからこそ上質の肉の美味しさとデミグラスソースの深い味を感じられる“洋食おがた特製ハンバーグ”
⑦香りと旨味が口の中でふわりと広がる“オムライス”
⑧味は濃厚なのに綺麗な余韻が残る“ナポリタン”
⑨まさに王道の美味しさ、こういうのが食べたかった!と叫びたくなる“プリン”
あ、もちろん、それぞれの量を少なくしてもらいましたが(調節してくれるのも嬉しい)、それぞれしっかり味わうことができました。
どれも本当に美味しいのですが、中でも“活アジフライ レアに揚げて”は感動ものでした。静岡・焼津の「サスエ前田魚店」が手当てした、旨味が最大限に引き出されたアジを用いているだけでなく、その下ごしらえが凄い。緒方シェフは、冷蔵庫から取り出したアジをトレーに置いてコンロの上の棚に乗せ、時折手で触っては温度を確かめ、丁度いい温度を見計らって、衣をつけて揚げます。
こんなに繊細にアジの温度を確かめながら最適な状態に仕上げる料理人は見たことがありません(それもいろいろな料理をつくりながら!)。
そして運ばれたアジフライは、きめ細かく香り高い衣に包まれ、断面を見ると衣の近くにはしっかり火が入り、中心部は生に近いけれど、火が通っていることがわかる状態。口に入れると、香ばしさ、アジのふくよかな美味しさ、さっとしゃぶしゃぶにしたような滑らかな旨味と、絶妙な温度の違いがグラデーションとなって口の中で広がります。
思わずスタンディングオベーションをしたくなるような、感動的な美味しさでした(でも、この絶妙な温度帯の状態で食べたいのでやめておきました……)。
文・写真:植野広生