首都圏と伊豆エリアを結ぶ観光特急列車「サフィール踊り子」では、中国料理「美虎-Miyu-」の五十嵐美幸シェフが監修する料理が食べられる。五十嵐シェフが目指したのは「海の景色と一体化する、旅の思い出になる料理」。その味を堪能すべく、「サフィール踊り子」に乗った。
列車旅の魅力のひとつに、車窓からの景色がある。広い海を眺めるのが好きな人もきっと多いはず。そんな人にピッタリなのが、JR東日本の観光特急列車「サフィール踊り子」だ。「サフィール」とは「サファイヤ」を意味するフランス語。宝石のサファイヤのように青く輝く美しい伊豆の海と空にちなんで名付けられていて、この列車は東京駅、新宿駅〜伊豆急下田駅間に長く続いている海岸線をゆったりと走っていく。さらに、海と空の風景をより深く堪能できるよう、座席の窓は広くて大きく、天窓までついている。まさに、風景の中に身を置いているような気分になれる列車なのだ。
4号車に位置するカフェテリアで2023年10月から食べられるようになったのが、中国料理「美虎-Miyu-」のオーナーシェフ、五十嵐美幸さんが監修した中華料理。五十嵐さんは、実際に列車に乗って景色を眺めながらレシピを考案したそう。「自分が得意とする『心も身体も温まる毎日食べられるヘルシーで身体に優しい中華』であることに加え、今回はカツオやイワシ、サバの魚粉など海の食材をふんだんに使い『風景と一体化する味』を目指しました」と、話す。
果たして「風景と一体化する味」とはどんな味なのか?そんな期待を胸に“大ぶりエビワンタン復興麺”(1,700円)のスープをひと口。まずは魚介の出汁のやさしい味わいに驚かされる。伊豆の穏やかな海の風景にすっと馴染むかのように、決して濃すぎず、それでいて滋味深い。最後の一滴まで飲み干せそうなやわらかな飲み心地だ。そして、のどごしがいいストレート麺は、2021年7月に発生した伊豆山土石流災害で被災した「コマツ屋製麺」と五十嵐さんによる協働ラーメンプロジェクトによる「熱海復興麺」。さらに、ヒラヒラと口の中で舞うエビワンタンの餡には、とうもろこしが粒ごと練り込んであり、食材の自然な甘みとエビの風味の相性がとてもいい。
4号車のカフェテリアは、自然の風景に溶け込むような濃い茶色を基調としたデザイン。椅子やソファーもふかふかとしていて座り心地がよく、落ち着いて食事を楽しめるのが魅力。窓が大きくて開放感があり、海を感じながら食事ができる。
*グリーン個室利用の場合は、カフェテリアではなく個室での提供になります。
「サフィール踊り子」の車窓から景色を眺めていると、とにかく海が近いことに感動する。白く湧き立つ波や、海沿いを散歩する猫まではっきりと見えるのだ。そんな風景をさらに堪能できるよう、特に海がよく見える場所ではあえて速度を落としてゆったりと走るという。それほどまでに、「海を眺めること」を大切にしている列車なのだ。
「サフィール踊り子」は全車両グリーン席。プレミアムグリーン(1号車)は海外の高級車のような優雅な設えの座席で、グリーン個室(2〜3号車)は書斎のようなシックな空間、そしてグリーン車(5〜8号車)の座席はファブリック素材で触れ心地がふわふわとやわらかく、天窓からの日の光が車内にキラキラと降り注ぐ。
プライベートな空間で海を眺めながらチビチビつまみたい派の人におすすめなのは、グリーン個室限定メニューの“美虎特製おつまみセット”(3,500円)だ。五十嵐さんのスペシャリテ「熱海シュウマイ」は大ぶりのエビやたけのこ、くわい、キクラゲ、貝柱を油揚げで包んだ個性的な逸品。一口かじれば油揚げからジュワッと出汁が染み出す。カツオの風味をまとったチャーシューや、揚げた唐辛子とナッツのソースが後引く旨さのワンタン、シンプルな味わいで箸休めにピッタリのメンマに、ほんのりとした塩気がお酒を誘う枝豆と高菜漬けの炒め物といったラインナップだ。クラフトビールだけでなく、スパークリングワインにも相性が抜群にいい。
海沿いをゆったりと走りながら、伊豆の海の風景とともに記憶に残るような中華料理を味わう。「サフィール踊り子」は、そんな贅沢な時間を体験させてくれるのだ。
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文:吉田彩乃 写真:五十嵐一晴(*列車の写真の一部と五十嵐シェフの写真はJR東日本からの提供)