大阪に住んでいた学生の頃から足しげく通っていたカツカレーのお店。閉店したと思っていたが、実は移転していたと聞いた松尾貴史さんは、さっそく訪れることに。何年たっても変わらない大阪の思い出の味とは――。
デザイン学科の学生だった頃、というと今から40年前になるか。ケント紙を挟むカルトンやポスターを丸めるアジャストケースなどを小脇に、炎天下も寒い冬も、旨いカツカレーを求めて地下鉄御堂筋線なんば駅界隈から歩いて十数分、この「カツヤ」に通っていた。
今でもまったく変わらぬ美味さで、いやひょっとすると進化しているのかもしれないが、当時の味と比べる術がない。数年前、四半世紀ぶりにうかがって感動したカツの滋味と柔らかさ、香ばしさに酔った。
さて、またもや今年の頭に再訪するチャンスを得たのだが、ネット上に「閉店した」という情報が投稿されている。
「またひとつ名店が消えた」と事情通と話したら、かつての店舗の近くに移転して営業を再開していると教えてくれた。もちろんすかさず行ってみたら、ずいぶんと綺麗な三階建プラスペントハウスの建物になっていた。
朝からカツカレーを食べたいという私にとっては、開店が10時半とはまたありがたい。
キャリーケースを持っていたら、「奥にエレベーターありますんで」と教えてくださった。
とんかつカレーCのヘレ(東京でいうヒレ、つまりフィレ肉)ヴァージョンをいただくことにした。
カツカレーを待っている間、厨房からは「どんどんどんどんどんどん……」という肉を叩く音が響き続ける。
さて、久方ぶりのカツカレーは濃厚な味、食べながらカイエンヌペッパー、ブラックペッパー、ウスターソースとちょい足ししながら味変を楽しむ。大阪の下町の風情を濃密に残す雰囲気、幾久しく続けていただきたいものだ。
文・撮影:松尾貴史