“農泊”とは、農村、漁村、山村に泊まり、その土地ならではの食や体験を楽しむ「滞在型旅行」のこと。現地で暮らすように旅ができるのが魅力だ。全国に点在する農泊エリアの中でも、特に注目なのが2011年に北海道初の「ワイン特区」に認定された余市。自社畑を持つ小規模ワイナリーが続々と誕生し、日本ワイン屈指の産地として人気を博している。余市で農泊をして、豊かな自然が育む美味しい料理とワインをたっぷり楽しもう。
積丹(しゃこたん)半島の根元に位置する余市町は、札幌から車で約1時間の場所にある。日本海に面する小さな港町だ。町から山に向かって車を走らせるとすぐ、ブドウの樹々が整然と並ぶ美しい丘が見えてくる。
余市は北海道初の「ワイン特区」であり、日本ワインの産地として国内外から注目されている。「ワイン特区」とはエリア内のブドウを使うことを条件に、生産量の規制が緩和される特別な地域のこと。道内でも比較的温暖で、昼夜の寒暖差のある気候は果樹の栽培に最も適した環境とされ、ワイン醸造用のブドウ畑は道内随一の生産量を誇る。
ワイン特区に制定されてからは、自社畑を持つ小規模ワイナリーが増え、個性あふれる“余市のワイン”が続々と誕生している。余市の冷涼な気候で育まれたブドウから生まれる白ワインは、爽やかな酸味と豊かな果実味をもち、栽培が難しく繊細なピノ・ノワール(赤ワイン用のブドウ品種)の栽培も盛んだ。
1軒目は、8万平方メートルのブドウ畑の丘の上に位置する、「OcciGabi Winery(オチガビワイナリー)」。ワイン造りの現場が見学できるワイナリーツアーや、さまざまな品種の自社ワインのテイスティングなどができる、醸造所併設のワインショップ&レストランだ。
オチガビワイナリーツアーでは、オーナー醸造家である落希一郎さん自ら、地下に設けられた醸造所や貯蔵庫の見学に同行し、天気が良ければブドウ畑でも解説などを行う。
「100年先を見据えた、本物のワイン造りを多くの人に知ってほしい」と落さん。
ワインショップにはケルナーやピノ・ノワールなど、さまざまなブドウ品種で造られた自社ワインが揃い、畑に面した試飲コーナーやテラスでは、飲み比べをすることも。
札幌や小樽の山々まで遠望できる絶好のロケーションに立つレストランでは、ほろりと柔らかくなるまで煮込んだ余市麦豚のプルーンと赤ワイン煮や、近海平目のブイヤベース、余市産「北島豚」ときのこのミートソースを合わせた麦豚ときのこのボロネーズなど、ワインと合わせずにはいられないメニューが並ぶ。軽くつまみたいときは、ワインと前菜盛り合わせという気軽な使い方もできる。
釣り好きの店主大岩聖史さんは、北海道各地の沿岸で釣りをした結果、もっとも魚種や食材が魅力的だった余市に2021年「Mare Blu(マーレ ブルー)」をオープン。
店のメニューの柱は、大岩さんが釣った市場にはあまり出回らない、船上で活け締めし熟成させた珍しい魚だ。たとえば、この日の鮮魚のカルパッチョは、余市沖で釣った真ゾイがメイン。真ゾイは甘味が強くコリコリした食感で“北海道の鯛”と称される魚。そこに蝦夷アワビ、自家製のイクラ漬けを盛りつけ、2種のパプリカのソースと、オリジナルドレッシングを添える。
さらに野菜は、顔の見える生産者のものを厳選。味が濃く糖度が高いトマトや、エグミのない仁木町のパプリカなど、産地の強みを存分に発揮したイタリアンを楽しむことができる。
余市駅前に佇むレトロな建物の「Yoichi LOOP」。余市のワインのポテンシャルに魅了されたオーナーが「この地で生まれる素晴らしいワインには、それに呼応する本格的な料理が必要だ」という思いでつくったレストラン&ホテルだ。1階は余市のワインと地元食材を駆使した“余市産料理”が味わえるレストラン、2〜3階は宿泊施設になっている。
レストランはランチ(6,600円、全7品)、ディナー(16,500円、全9品)ともにコースのみ。腕をふるうのは京都の老舗日本料理店や、スペインのミシュラン星付きレストランなどで修業してきた料理長の仁木偉シェフだ。「余市は港が近く素晴らしい品質の魚介が水揚げされ、旨味が強い野菜からも土地の地力を感じます。そして、潮風を浴びて育ったブドウを丁寧に醸した余市のワインは、この地でとれる海の幸や野菜、フルーツと驚くほど相性がいい」と話す。
ディナーの一品であるニシンのテリーヌは、北海道の郷土料理「切り込みニシン」のオマージュ。ニシンは骨の多い魚だが、皮をあぶり、鱧のように骨切りする丁寧な下ごしらえによって、魅惑の一品に昇華する。マリネしたニシンと、じっくり火を入れて甘味と香りを引き出した余市産のパプリカを重ね、甘酸っぱいゼリーでかためたもの。ゼリーは余市特産のリンゴジュースをベースに、ニッカウヰスキー「竹鶴」を隠し味に。地元味噌蔵で仕入れた麹を塩麴にしたソースで味わう。
食材から調味料まで、余市の魅力をさまざまに組み合わせた目にも舌にも美味しい料理は、ワインペアリング(ランチ全7種8,800円、ディナー全9種、12,100円)で楽しむこともできる。セラーに並ぶ銘柄も傑作揃いで、熱烈なファンが多い「ドメーヌ タカヒコ」の稀少なワインも料理に合わせて登場する。
日本三霊山のひとつに数えられる白山。隣県にまたがって白山国立公園に指定され、2023年5月には石川県白山市全域が「白山手取川ジオパーク」としてユネスコ世界ジオパークに認定されて注目されている。その中腹に位置する「一里野温泉 岩間山荘」は、猟師の主人が射止めた熊や猪などの肉を、女将が調理するマタギの宿だ。
「獲物の肉は、猟の仲間と分け合う。お父さんが持って帰ってきたお肉を、私が美味しく料理してお客様に食べてもらっています」と女将。
メインの熊鍋はアザミの葉を一緒に煮込む。アザミの葉特有の香りとちょっとした苦味が脂分を和らげ、食べやすい。熊のあばらの塩茹では、骨からホロッと身が外れ、噛むほどに肉のうま味が広がる。熊肉の脂身由来の、木の実のような香りが漂う熊ハンバーグも絶品だ。ジビエ以外にも、女将が周囲の山で採取した山菜や木の実などが盛り込まれ、滋味深い豊かな山の味を満喫できる。白山の自然に触れられるノルディックウォーキングなどとあわせて、土地の味に触れてみたい。
愛知県豊田市の北西部、長野県飯田市へとつながる日本風景街道「中馬(ちゅうま)街道」沿いに位置する稲武地区。北東に天竜奥三河国定公園、南西に愛知高原国定公園が広がる、雄大な自然に囲まれた山里に「夏焼温泉 青柳亭」はある。
稲武を中心とした季節の地産食材を、和懐石で提供。名物は川魚の骨酒(要予約)で、使う魚はその日によって変わるが、じっくり焼いた川魚の香ばしさと旨味が日本酒に溶け出し、まるで出汁のスープのような味わいだ。
コースは清流で育った鮎の塩焼きと天ぷら、親鶏の出汁が効いた丸茄子のあんかけ、新鮮な馬刺しなど盛りだくさん(内容は季節により異なる)。春は山菜、秋はキノコ、冬はしし鍋といった山の幸も登場する。
愛媛県の中央、自然豊かな山の中に位置する内子町。町内の麓川の源流域に位置する石畳地区に、地元の農家住宅を移築した築100年を超す「石畳の宿」がある。
宿の魅力は、運営するお母さんたちが育てている野菜や川魚など、旬の食材を使ったシンプルで滋味深い田舎料理。この日の夕食はドクダミやゴーヤの葉、ビワの新芽などの天ぷらにアメノウオの塩焼き、山菜のちらし寿司、石畳のそば、野菜のお煮しめなど、ほっこりとした家庭料理に、思わず笑みがこぼれるはずだ。
農林水産省が認定する「農泊」地域は、2023年4月現在で600ヶ所以上。現地で自生する野草や、新鮮な牛乳で作った乳製品、その土地の自然を享受した山海の恵みなど……地元の人々が日常の中で育んできたローカルフードを味わうことができる。新しいのに、懐かしい味に出合える「農泊」。一度体験してみては?
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