10年の歳月をかけて生まれたイチゴ品種「あまおとめ」を母に、「紅ほっぺ」を父に、2004年から着手した新品種開発。早い収穫開始、安定収穫、長期の収穫、硬い果皮、着色の安定、高い糖度と程よい酸味。父母の欠点を克服したイチゴ戦国時代に打って出る愛媛県の新兵器。
1985年、愛媛県農業試験場は県のブランドイチゴ品種を生み出す育種に着手した。
1991年、明宝・女峰・しずたから・麗紅の血を受け継ぐ、食味の良い愛媛農試V1号の種苗登録に成功するも、当時の主力品種(女峰・とよのか)を押し除けることはなかった。その後、全国的に県が独自品種で競争を繰り広げるマーケットで、愛媛県は苦戦を強いられる。
2001年、県試験場が「とちおとめ」 「さがほのか」を交配し、2005年に「あまおとめ」が誕生する。その後は「あまおとめ」「紅ほっぺ」の二本柱が愛媛のイチゴ生産を担うが、「あまおとめ」には着色不良果の発生、「紅ほっぺ」には甘さ不足と強い酸味と、遅い収穫開始時期という欠点を抱え、愛媛イチゴの苦戦は続いた。
愛媛県農林水産研究所は2004年度に新品種の開発に着手する。88株から9株を選抜し、さらに2系統を選抜し、更に1系統に絞り込み、愛媛13号と名付け、特性検定と県内各地での生産性試験に入る。2014年度、10年の歳月を経て、愛媛13号は「紅い雫」のブランド名を冠してデビューすることになる。父母の欠点を克服した愛媛独自品種は、全国300品種以上が熾烈な戦いを繰り広げるイチゴ戦国時代の新兵器だ。
全体が紅く色づき、光沢があり、姿が雫状に整うことで名付けられた「紅い雫」。糖度が高く、適度な酸味もあり、さらに輸送に耐える、硬い果皮も持ち合わせる有望株だ。
酒井さんは1978年から三代続くイチゴ農家。様々なセンサーを駆使して栽培管理をし、生物農薬を使って消毒回数を減らし、受粉役のミツバチに優しい環境でイチゴを育てている。厳寒期にはイチゴの先端糖度を15〜20度まであげるというから、かなり凄い農家だ。今回は酒井さんの紅い雫に限定して、産地直送でお届けする特別企画。
大粒・着色良好・多収・省力・電照不要……そんな凄いイチゴ品種を研究所は開発中だ。
文:(株)食文化 萩原章史