松尾貴史さんが関西随一に美味しいと思っているスリランカカレー店が神戸にあります。久しぶりに訪れて食べたハマチのカレーは興味深いスパイスが使われていて――。
個人的に、スリランカカレーでは関西随一だと思っている「カラピンチャ」に、このところ久しく行きたいと思っていたのに、私が関西に滞在する可能性が高い曜日には営業していないものだから、なかなか行くことができなかった。今回、レギュラーで出演しているテレビ番組「住人十色」(毎日放送)の収録の翌日が休みだったので、ホテルを延泊してうかがうことができた。
大阪梅田駅から阪急神戸線一本で40分足らず、岡本で乗り換えれば30分で着く王子公園駅のすぐそばで、駅の西改札口から「こんなに近いのか」と思うくらいに至近である。改札を出たらきっと30秒もかからない。開店7分前くらいに着いたら、何と運良く先客は一人だけ、まったくもってついている。
4分前ぐらいになったら、「どうぞ」と迎え入れてくれた。いつもながらに爽やかに迎えてくれる明るい店主とスタッフの皆さんの快活さに高揚する。
今回は、チキンをメインとして、ハマチのカレーをサブにお願いした。
それほど待つでもなくプレートが到着、まずはハマチのカレーからいただくことにした。スリランカは島国なので、すぐ近くのインドよりもさらに魚に馴染みが強いのではないだろうか。独特の配合と、特徴的なローステッドスパイス(焙煎香辛料)の豊かな香り、魚との相性の良い味で目眩く時間を楽しめる。鋭い辛さなのに、爽快に感じるのは程よい酸味と柑橘風の香りのなせる技か。
「このハマチのカレーの酸味は何によるものですか?」と図々しく聞いてみると、「それは『ゴラカ』です」と。寡聞にして知らなかったのだが、ご主人曰く「柑橘風の果実を干して、さらに燻製にしてあるスリランカ特有のスパイスです。魚のカレーにはすごく合いますよ」と解説してくれた。
もちろん、チキンカレーの安定したバランスの良い、しかし個性的なうまさを堪能しつつ、「うちに帰ったら自分でも試しに作ってみよう」という衝動が湧いてきた。物販の棚から、ローステッドのカレー粉と、ゴラカを一袋ずつ選んで購入。
こちらのご主人は、2019年に来日していた、スリランカ料理界の代表的な料理人、巨匠・パブリス・シルワさんとも昵懇で、その時に紹介もしてくれた。当時のイベントで、シルワさん監修のマグロのカレーがメインのプレートを食べてあまりのうまさに感動し、三日連続で行列に並んだ思い出がある。今でも親交は続いているようで、時折電話がかかってきては「日本に行きたい」と言っておられるとか。現在87歳くらいのはず、お元気そうで何よりだ。スリランカの国内の政情とコロナが落ち着いて、また邂逅を望むばかり。
今は、同じ世界観の延長線上にある「カラピンチャ」で、その味を思い出すことにしよう。
文・撮影:松尾貴史